遠い地平線が消えて...
深々とした夜の闇に
心を休める時。
はるか雲海の上を
音もなく流れ去る
気流は、
たゆみない宇宙の営みを告げています...。
満点の星を頂く
果てしない光の海を
豊かに流れる風に
心を開けば、
きらめく星座の物語も
聞こえてくる
夜の静寂(しじま)の
なんと饒舌(じょうぜつ)なことでしょう...。
光と影の境に
消えていった
はるかな地平線も
瞼(まぶた)に浮かんで参ります...。
これからのひと時、
月曜日から金曜日までの毎晩、
あなたにお贈りする
音楽の定期便
ジェット・ストリーム...。
夜間飛行のお供をして
まいりますパイロットは、
わたくし、
「福山雅治」です...。
ジェット・ストリーム
JET STREAM
日本航空
JALが
お贈りします...。
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「ジェット・ストリーム」
作家が描く世界の旅。
今週は作家「くじらいあめ」
書き下ろしの物語
”世界の果ての焚き火”を、
5日間に渡って、お送りしています。
今夜は、その最終夜。
25年前、「世界の果て」と
言われる町「ウシュ・アイア」を
訪れた男。
父を●くし、就職活動に疲れ、
都会の喧騒から離れたいと、
行き着いたこの土地で、目にしたのは、
浜辺で、焚き火を前に
1人、静かに座る「ヤマナ族」の
老婆の姿だった...。
そして今、再びこの地に、
降り立った彼は、
その老婆の孫、「ルッカ」から、
話を聞いていた...。
・・・・・・。
老婆の墓は、無かった。
火葬して、位牌を海に
埋葬したそうだ...。
祖父と同じ場所に、
行ったのだという...。
浜辺で、薪に火を起こしながら、
「ルッカ」は、言った。
静かな波の音がしていた...。
焚き火は、「ヤマナ族」にとって、
大切なものだそうだ...。
遊民であった「ヤマナ族」は、
カヌーで、入江を行き来して、
海に潜り、狩漁採集を
行っていた。
夏でも、気温が20℃を下回るこの地では、
炎が重要な熱源だった。
「ウシュ・アイア」のある「フエゴ島」を、
含む諸島は、スペイン語で
”火の土地”を意味する...。
かつて、この地を訪れた
「マゼラン」は、島から立ち上る
煙を見て、
「火のない所に煙は立たぬ」か...。
と、ここを ”火の土地” と
呼んだらしい...。
浜辺に小さな炎が焚かれ、
私は、礼を伝えた...。
「ルッカ」は、老婆から、
私の話を、聞いていた...。
しかし、年越しの瞬間に
現れた異国の若者の存在が、
おとぎ話じみていたので、
長らく、老婆が見た
夢の話だと、思っていた...。
当事者の老婆自身も、
「あれは、夢だったのかも...?」
と、言っていたらしい。
「ルッカ」は、
「次は僕が、
あなたを尋ねる!
いつになるか、わからないけど、
日本食にも興味はあるよ!」と、
私に、尋ねた。
「会えますか?」
「会えるとも」
「お互い、先を危ぶむ年齢でも、
ないだろ!?」
「ルッカ」は、片膝をついて
火に小枝をくべた。
そして、私を見上げた。
「心配事でも...?」
・・・・・・。
・・・・・・。
私の父は、52歳で●くなった...。
心臓の病だった。
父方の祖父も50代前半で、
●くなった。
心臓の病だった...。
私はもうすぐ、50歳になる。
それを、聞いた「ルッカ」は、
眉毛を寄せて
「それはまた、気になるだろうね?」
と、言った。
25年前、この地を訪れた私は、
密かな変化を寄せていた...。
好転の兆しが見えない現実と、
先の見通しづらい将来に対する
「やっつけ」のようなものだった。
今、私が望むものは、
その真逆である。
安定した日々だ。
かつて、ここで焚き火を
眺めていた彼女は、
突然の「夫の●」によって、
変化への恐怖心を抱き、
大きな節目を迎えてすぐ、
●くなった...。
●というものは、
いつか訪れる...。
人間にとって、耐え難い変化だ!
●ぬことは、恐ろしい。
私は、言った...。
「それでも、生きていく...」
膝を着いたまま、「ルッカ」が言った。
「こうやって、温もりを求めながら、
日々は続く...。
だから、きっと、僕らは、
また会える。
身体は衰える一方だがね...」
「ルッカ」は、立ち上がり、
「気が済むまで、ごゆっくり」と、
先に店内に戻った...。
私は、レンタカーショップに
連絡を入れ、スマホをしまった...。
炎に両手をかざして、
正面に広がる景色に
息を吐く。
日々は続く。
続いていく。
変わりながら
留まりながら
大きな変化は、実い恐ろしい。
しかし、細やかな温もりがあれば、
流れる時間が運んでくる不安も、
耐えられるのかも、知れない...。
向こう岸に連なる山々は、
白化粧をかぶり、
青空に雲は流れ、
波はチャプチャプと遊んでいる。
海面は、仄かに白くきらめき、
風は冷たく、
空気も冷たく
しかし今、焚き火が
私を、温める。
明るい空の下で...。
年越しのさなか。
炎を見つめる彼女の
横顔を思い出す...。
木の爆ぜる細やかな音、
2つの言語で、紡がれた言葉。
聞き取れなかったもの、
聞き取れたもの。
あの時もまた、焚き火が、
私を、温めた...。
暗い宇宙で、目を閉じれば
私の瞼の裏には、
2つの焚き火が
息づいている...。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
夜間飛行のジェット機の
翼に点滅するランプは、
遠去かるに連れ、
次第に星の瞬きと
区別がつかなくなります...。
お送りしております この音楽が
美しくあなたの胸に、
溶け込んで、いきますように...。
高度1万mの風に乗せて、
お送りする大空の間奏曲、
JET STREAM
お相手は、「福山雅治」でした。
ジェット・ストリーム。
日本航空、
JALがお送りいたしました...。
備考:この内容は、
「福山雅治地底人ラジオ」
1193回視聴・2週間前
”JET STREAM 福山雅治
2024-05-03”
より紹介しました。