落語家の、桂亭治が、はじめて
ハワイに行ったときのエピソード。
貝殻拾いに夢中になって溺れそうに
なるなど、ハワイに着くそうそう失敗を
しでかした桂亭治だったが、気をとり直して、
シャワーを浴び、少しばかりおしゃれして
ホテルのバーへと出かけた。
まわりにいるのは青い目のスマートな
外人さんたちばかりである。当人も
すっかりその気持ちになって、まるで自分が
ハードボイルドの主人公になった
ようなつもりでいた。
メニューを適当に指さして、運ばれてきた
カクテルを飲みながら周囲を見回すと、
金髪美人が目に飛び込んできた。
先程までのニヒルなポーズはどこへやら?
持ち前の明るさでグラス片手に彼女に
近づいていったまではよかったが、
金鳥してしまってどうにもならない。彼は
なんとか、落ち着こうとして、震える手で、
タバコに火をつけると、ゆっくりと煙を
吹きだした。
ところが、金髪が一瞬 煙に紛れた
かと思うと、
「パチ~ン!」、煙の向こうから
美女の平手打ちが「亭治」に飛んできたのだ。
うっ...!
姉ちゃん、
サウスポーだったのかい?
「いったい何事やねん!」
何がなんだかわからずにうろたえる
彼を残して、彼女は勢いよく外に
出ていった。
そばにいた彼の友人があきれ返ってひと言、
「おまえなぁ、タバコの煙を相手の
顔に吹きかけるのはケンカをふっかけたのと
同じなんだぞ。相手はおおいに侮辱
されたと思ったんだよ!」
知らぬこととは言いながら、
せっかくのアバンチュールのチャンスを
フイにしてしまった彼。そそくさとその場を
あとにしたそうだ...。
テヘペロ...。
備考:この内容は、
1994-15
発行:河出書房新社
著者:ユーモア人間倶楽部
「旅の大ドジ編・
世にも恥ずかしい人々2」
より紹介しました。