振り返れば、亭主に会った、
あの若い頃、女房に会った、あの若い頃、
女房の顔を観るだけで、
心がときめいた時代がありました。
あれから40年...。
いま、女房の顔を見るたんびに
不整脈です。
若いときは命がけでした。
命をかけました。亭主に。
あれから40年...。
いま、生命保険をかけてます。
昔は、手を取り合っていました。
あれから、40年...。
いま、財産を取り合っています。
昔は喋り足らず、夜中まで
喋ったものです。
あれから、40年...。
いま、口を開けるのは、薬を飲むときと、
歯を磨く時だけです。
昔は、口紅を塗っただけで、パーッと
明るくなっていました。
あれから、40年...。
いま、口紅を塗ったために、
唇だけが若返り、あぜ道に彼岸花が咲いた
ようです。焼きそばに紅しょうが、
カレーライスに福神漬け。
昔は、愚痴をこぼしていました。
あれから、40年...。
いま、ご飯をこぼすように
なりました...。
昔は、羽目を外していました。
若かったんです。
あれから、40年...。
いま、外せるのは、入れ歯ぐらいです。
昔は男性に声をかけられるときがありました。
若い時、男性によく
声をかけられましたね、奥さん、
その顔で...!
いま、声をかけてくれるのは、
おまわりさんぐらいです。
男性に、突然襲われたときだって、
ありました。
あれから、40年...。
いま、突然、
襲われるのは、息切れ、めまい、動悸。
子育てに夢中だった20代、
30代は、上の子をおんぶして、下の子を
だっこしてがんばったものです。
いま、おんぶにだっこしているのは、、脂肪の
かたまりです...。
昔は、「よいしょ」といって荷物を持ち上げました。
あれから、40年...。
いまは、「よいしょ」と言って、
座り込んでいます。
昔は、女房の身体を、よく触りました。
あれから、40年...。
いま、毎日触るのは、
「手すり」くらいです。
「あなた、この子どもたちのためにも、
長生きしてね、お願い~!」、と約束
いたしました。
あれから、40年...。
子どもたちも順調に育って、2人きりになり、
ダンナの横顔を見つめ、
「まあ、長生きしそう~!?」
「あなた、白髪の生えるまで
一緒に生きていこうね」
と約束したダンナも
ツルツルにはげ、近ごろ、どこにシャンプーを
つけていいものか? どこまで顔を
洗ったらいいものか? 頭がかゆいのか、
顔がかゆいのか?
シャンプーの泡が立たず、
いったん下で泡を作ってから、
リサイクルシャンプーで頑張っています...。
なんにもいらない、
あなたさえいれば...。
あれから、40年...。
なんでもほしい、
あんたは、いらねえ...。
備考:この内容は、
2009-7-27
発行:PHP研究所
著者:綾小路きみまろ
「有効期限の過ぎた亭主、
賞味期限の切れた女房」
より紹介しました。