大学生の頃、アルバイトの出張でよく
博多に行っていた。
バイトで出張というのは、珍しいかもしれないが、
クラブや居酒屋で煙草の研修を受けた、
へそ出しの衣装を着られる女の子というのは
世の中には多くないらしく、人手が足りなく
なると、大阪からいろいろな場所に駆り出された...。
東京や名古屋、広島にも行ったけれど、
博多に行くことが一番多かったと思う。
大阪から博多までは新幹線で2時間半。
出張手当もつくし、翌日観光もできる。
なにより美味しい食べ物が多い博多出張が
私は大好きだった。
その日も、出張で、博多に来ていた。
仕事が23時で終わり、大阪から一緒に着ていた後輩と、
「もつ鍋」を食べに行こうという話になった...。
「博多駅」
博多のグルメの代表格でもある「もつ鍋」。
最近は、1人鍋も流行ってはいるが、老舗の
有名店だと、2人前からしか注文を受け付けない
というところも少なくない。ゆえに1人では
ハードルが高くて、なかなか行けずじまいだった。
夜遅くまでやっている「もつ鍋屋」を
探して入店する。座敷に通されてお目当ての「もつ鍋」と
ビールを注文した。まず、乾杯して副流煙を
吸いまくった喉をビールで潤す。
待つこと数分、テーブルにたっぷりのニラが
乗った「もつ鍋」が到着した。その山を崩して
いくと、白くてプルプルとしたモツが顔を出す。
その圧倒的なビジュアルに後輩と2人して
歓喜の声を上げた...。
後輩は、「もつ鍋」を初めて食べるらしい。
鍋を前に会話が弾む。
ただ、彼女の話の節々に、世間離れした
印象を受けるのだ。
よくよく話を聞いてみると、彼女の実家は、
驚くほどの金持ちだった。関西の人なら
聞いたことのある高級住宅街に住み、家には
お手伝いさんが数人在籍しているらしい。
アルバイトは社会勉強のために
やっていると言っていた。
へそ出しの仕事は彼女にとっての
社会勉強だった...。
言われるまで、気づかなかったけれど、
着ていたワンピースも雑誌「ヴァンサンカン」
によく載っているブランドのものだったし、
頭に乗せていたカチューシャも、フェラガモの
ものだった。
「わ~、本物のお嬢様だ!」
オ~、マイ、ゴッド!
庶民の私は、今まで出会うことのなかった
富裕層を前にして、浮足立ってしまう。
食べるのにマナーなんてないはずの「もつ鍋」を前に、
なぜか、私がかしこまってしまった。
しめのちゃんぽん麺まで完食したはずなのに、
せっかくの本場の味の記憶がまったくない。
「もつ鍋」の味とは逆に、鮮明に残って忘れられない
ものがある。それは彼女の持っていた
「ジミーチュウのポシェット」だ。黒のレザー地に、
銀色に輝くバックルが付いていた。その
バッグがあまりにも彼女に似合っていて、私も、
こんな風になりたいと憧れてしまったのだ。
ブランドバッグが似合う女になるということは、
成功の証だと、そう思った...。
ホテルに戻ってからも、彼女の持っていた
バッグのことが頭から離れず、ネットで検索すると、
20万円以上もする代物だった。
さすがに
ジミーチュウ。
決して富裕層ではない家に生まれ、
奨学金を借りていた私には到底手が届かなかった。
いつか金持ちになってこのバッグを
買おうとブックマークをしたことを
覚えている。
それから、何年も経った...。
備考:この内容は、
2022-1-26
発行:KADOKAWA
著者:SAORI
「散歩するアンドロイド」
より紹介しました。
(筆者の感想)
がんばれ!
アンドロイドのお姉さん!
ファイティ~!
きゃは!
Qちゃん、韓流?