今度は、私の部屋の様子をヤツに
言い当てさせればいい。桂木は、必ずボロを
出すはずだ。なぜなら、私の部屋の
様子を知る者など、皆無に等しいからだ。
この部屋を訪れたことがあるニンゲンは山田と、
以前、彼女に部屋を貸した際に
やってきたその母親ぐらいなものだから。
そう、部屋にある野球盤も、
ツイスターも、すべて1人で楽しんでいる。
特にツイスターなどは、対戦相手を
女性と想定し、「私は右、赤」
「じゃあ、僕は緑」
「あっ、次郎。どこ触るの?」
「しょうがないじゃないか。
君はあまりに大きすぎて...」
と、ゲームを進行するのだ。
私のように、想像力が
ずば抜けて優れているニンゲンにとっては、
相手などむしろ不要。そう、私の頭脳を
持ってすれば、
釈由美子や
本上まなみと
交際することだって可能だ。
私は、そうして様々な女性との、お付き合いを
経験としてきたのだ!
さて、話を元に戻そう。私は、桂木の
ウソを暴くための自分の部屋の様子を
言い当てられたわけだが、その思惑は、
すっかり外れてしまった。ヤツは、
何らかのトリックを使って、ほぼ完璧に
それを言い当ててしまったのだ。
ふふん、なかなかやるではないか!?
しかし、そこで桂木は、1つのミスを犯す。
ほんの些細なミスではあったが、
天才の私にかかっては、それは必要充分。
もちろん、その場で桂木を締め上げても
良かったのだが、この男の力を信じて、
疑わない老人たちの目を、はっきり
覚ますためには、よりわかりやすい
形で、ウソをつく必要がある。
その日の夕刻、私は、再度、桂木の
事務所を訪れ、
大衆の面前で、対決を始めた。
内容は、至ってシンプル。
私と桂木が、ついたてを挟んで座り、私が描いた絵を、
桂木が透視し、同じものを描くというものだ。
桂木の千里眼のトリックを
完全に解明していた私は、ここである
トラップを用意していた。
連続正解を
続けて調子に乗った桂木に、”はし”の
絵を描かせたのだ。すると、桂木は、
予想通り、私の ”橋” の絵に対して
”箸” の絵を描いたのだ...。
つまり桂木は、眼帯に仕込んだ受信機で
共犯者から情報を受け取り、さも
透視したかのように絵を描いていただけなのだ。
私の部屋の様子も、向かいの
マンションから望遠鏡で、覗き見た
共犯者の言葉をそのまま語っていたに
過ぎない。そして、その時も桂木は、
関西なまりの共犯者が発した ”箸” と ”橋”
という言葉を聞き間違えていたのだ。
やがて、警察が到着し、桂木たち
一味は、逮捕された。各地で派手に稼いで
いたヤツらは、すでに警視庁にマーク
されていたのだ。ふっ!ニセ能力者
など、私にかかれば他愛もない。せいぜい、
今までの罪を塀の中で反省するがいい。
そうして、連行されていくか桂木に、
ふと1つの人影が近づいていった。あの
車椅子の少年だ。
「先生、僕、治らないの?
●んじゃうの?」
「そうだよ、先生はインチキだからね」。
一瞬のやりとりで、私には、それを止める術は
なかった。いや、止める権利すら、
なかったのかもしれない。
果たして、不治の病に冒された少年にとって、
支えとなったのは、桂木の
”USO”だったのか?
それとも、私が暴きたてた
”真実”だったのか...!?
私は、少年の後ろ姿を
ただ見つめることしかできなかった...。
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【トリック徹底解説...】
謎の卵
視聴者に衝撃
OPの緑の黄身
● 山田奈緒子
自称:天才マジシャン
そこまでよ!
お前たちのやってることは、
東西南北、赤道直下、天地無用、
1つ残らず、宇宙の果てまで、
全部、お見通しよ!
● 上田次郎
自称:天才物理学者
態度デカいが小心者
● 矢部謙三
公安部:警部補
カツラ?
備考:この内容は、
2002-11-30
発行:学習研究社
著者:上田次郎
「どんと来い、超常現象」
より紹介しました。