巨匠SF作家が透視したリアルな管理社会
「マイノリティ・リポート」
2002年 アメリカ
トム・クルーズ ☓ スティーヴン・
スピルバーグという稀代の
ヒットメーカー2人が、初タッグを
組んだメガヒットSF大作、
のはずだったが、ダークな色調の世界観が
あまり受け入れられず、興行
成績は ぼちぼちに終わった。
当初は、トム・クルーズ主演作
として、フランソワ・トリュフォード
監督の『華氏451』(66年)の
リメイク案が●上に載せられて
いたが、未来社会では読書が禁じられ、
当局に逆らう人々は本の内容を
丸暗記して対抗するという、
SF映画にしては、あまりに地味な
内容。
代わりに決まったのが、
フィリップ・K・ディック原作の
『マイノリティ・リポート』だった。
サイエントロジーの信者である
トム・クルーズとしては、創始者
L・ロン・ハバートが提唱する
勉強法で難読法を克服した自身の
感動的な体験談を、さぞ映画化した
かったことだろう。
『マイノリティ・リポート』も
『華氏451』と同様、市民の
感情や思考が当局によって厳重に
チェックされている近未来の管理
社会が舞台。
プリコグと呼ばれる
予知能力者によって、●人事件は
すべて事前に、そのビジョンが
キャッチされている。
犯罪予防局が出勤し、
犯人は、反抗未遂のまま逮捕
されることにより。
犯罪予防局が設立
され、●人事件は、ほぼ起きなくなった。
だが、未来予想は、すべて
正しく、●意を抱いた人間の中には
犯行直前で思いとどまる”少数派”
は存在しないのか?
犯罪予防局で犯罪者を執拗に
追っていた主任刑事ジョン(トム・
クルーズ)が、逆に犯人として
追われる立場になるというサスペンス
フルな展開。
一撃にして敵を
ゲロまみれにしてしまうシック・
スティックなどの近未来の護身術や、
網膜チェックを逃れるために
ジョンが眼球の摘出手術を受ける
シーンなどのグロ描写が
スピルバーグらしい...。
この映画の世界では●意を
抱いた人間は、●人未遂罪で逮捕される
わけだが、
作家や、映画監督や俳優
らは、「この野郎、ぶっ●して
やる!」
という激情を常に内包して
いる人種だろう。
若松孝二監督
なんて「警察官が大キライ。映画の
中でなら、いくら●しても犯罪に
ならないんだよ!」という理由で
映画を撮っているわけだし。
多分、
犯罪予防局の収容施設は映画関係者で
溢れかえっているにちがいない。
危険分子が排除されたぶん、未来
の映画は洗練された美しい映像
だろうけど、ひどく退屈なもの
ばかりになっているはずだ。
現代社会はクレジットカードを
使ったネット通販、コンビニや
DVDレンタル店で利用できる
ポイントカード、駅の乗り継ぎが簡単
になったパスカード...と
便利でスマートな生活が送れるように
なった。
それと同時に、個人情報
保護法があるとはいえ、1人
ひとりの嗜好性や行動履歴は丸裸
状態だ。
自分の彼女や家族よりも、
システムのほうが自分のことを
よく知っている。
かつては、管理社会を
描いたSF映画を観ても、
「ここまで人間はバカじゃないだろう...」
と笑っていたが、最近は、全然
笑えない。
人間が生み出したシステム
によって、人間が管理される時代が
すでにやって来ている、こんな
考えは、まだ、”少数派”だろうか...?
(長野)
備考:この内容は、
2012-8-21
発行:洋泉社
「~異次元SF映画100~」
より紹介しました。