【HS大震災の悪夢、再び...】
投げ飛ばしたり、降りてきたりする
だけでもこれだけの、被害が出る。しかし、
「ウルトラマン」では、もっとムチャクチャ
なことが起きている。「空の贈り物」
という話では、体重20万t のスカイドンが、
宇宙の彼方から落ちて来るのだ。
宇宙彼方から落ちてくるとなると、
地球の重力だけではなく、太陽の重力に
よる加速も考えなければならない。
空気抵抗がなければ、地面と衝突するときの
エネルギーは「10京（けい）J」である。
おお、京（けい）！
ついに、兆の1つ上の位まで登場して
しまった。
宇宙空間から落ちてくるとなると、
空気摩擦は、かなりのものになる。ここでは、
50%が熱に変わり、50%が衝突の
エネルギーになると仮定しよう...。
まず、19京（けい）J（ジュール）の50%、
9京5千兆Jの
熱について考えよう。このうち半分が
スカイドンの体に吸収され、残りは
空気中に逃れると仮定する。
スカイドンの体は、
「スカイウロコ」という硬くて重いウロコで
包まれているという。スカイドンが
重いのは、このウロコが、地球上の物質で
最も重い部類に入るプラチナに近い性質
を持っている物質でできているとするなら、
これだけの熱が加わると、落下の途中
ですべて溶けて液化し、蒸発してしまう。
スカイドンが、無事に落ちてきたところ
を見ると、体は熱にきわめて強い物質で
できているに違いない...。
それでも、体の一部は、溶けて本体から離れ、
数千度の液体金属の雨として地上に
降ってくる。無数の機関銃から、真っ赤に
焼けてドロドロになった弾丸が飛んで
くるようなものだ。地上の人間は、
ひとたまりもない...。
衝突のエネルギーも、
9京（けい）5千兆J（ジュール）である。
衝突時の速度は秒速31km、実に
マッハ91だ。これだけのエネルギーになると、
地面が陥没して土砂が吹き上げられ、
クレーターができてしまう。
「いつ起こる小惑星大衝突」（講談社ブルーバックス）
に載っている式で計算すると、その直径は
880m、深さは230m、吹き上がる
土砂の量は、8億t にのぼる。
また、衝突エネルギーの80%が地面の
揺れになるなら、マグニチュード8.1の
地震が起きる。95年のHS大震災は、
マグニチュード7.3であった。あれより
大きな地震が、より被害を大きくするで
あろう地表で起きるのだ。
スカイドン落下の恐怖は、これで
終わりではない。物体が空気中を音速以上の
速度で運動すると、衝撃波が発生する。
マッハ2桁で飛んでくるのだから、この
破壊力も、はなはだしい...。
スカイドンの落下を空の上から観測
したとしよう。真っ赤な火の玉が飛んで
きたと思ったら地面が破壊し、引き続いて
高速カメラでカビの繁殖をとらえた
ように、地上のすべてのものが、衝撃波に
よって、「ダァ～っ！」と崩されていき、
眼下の地上に達したと思った瞬間、見えない鉄板で、
ぶちのめされたように観測音も粉砕されて
しまう。
地割れ、断層、場合によっては、
火山の噴火さえ起こり、たたき上げられた
土砂が空を覆って、太陽の姿は
かき消されてしまう。誰も何もわからないうちに、
この世の ●わりが来るのである...。
結論。地面の上で怪獣を投げ飛ばして
いるうちはいい。スカイドンが落ちて
きてしまうのも、致し方ないだろう。
しかし、とにかく、ウルトラマンが変身の
たびに、空の彼方から飛んでくるのだけは、
やめてもらいたい。あなたが来ないだけでも、
われわれ地球人は幸せだ...。
備考：この内容は、
2018-11-30
発行：KADOKAWA
著者：柳田理科雄
「空想科学読本 1」
より紹介しました。
（筆者の感想）
あの～、ウルトラマンの
バックキックは...。
きゃは！
バックキックの話は、
時期が時期だけに、
もうヤメて！ 
