【ミリタリー・ファンの
心くすぐる戦闘機たち...】
映画公開当時(80年代)、「トップガン」は、
「海軍戦闘兵器学校」の一部門として
カルフォルニア州ミラマー基地に
実在していた。
主役となる「F-14 トムキャット」
戦闘機のほか、あらゆる
航空機を使って、実践を模擬した飛行訓練が
行われていた。

グラマン社が開発した「F-14」は、
航空母艦上での運用を想定した高性能の
迎撃戦闘機で、雄猫を意味する
「トムキャット」の愛称がつけられた。

74年から本格的に海軍で使われるように
なり、約700機が生産された。前席に
パイロット、後席にレーダー迎撃士官が
搭乗する。
戦闘機の乗員にはコールサイン
(無線での呼び名)が与えられ、
言わずもがな、映画の主人公は
「マーベリック」であった...。
F-14は、幅広い飛行環境に対応する
ため、「可変異」を有するのが特徴だ
(主翼が大きく開く、または閉じる)。
飛行速度によって、機体形状が変化
する姿は、メカミリ系
(メカニズムとミリタリー)の皆の心を
大いに揺さぶった。

映画のオープニングとクライマックスは、
「インド洋」が舞台だった。ここで
架空の国軍戦闘機と一戦を交える
ことになる。劇中で出てくる敵機は、
「ミグ28」と呼ばれたが、これは、実在しない
戦闘機であり、特定の国を意識した
ものではなかった。
当時、ソ連製のミグ戦闘機のシリーズは、
共産圏を中心に世界中に輸出されていたが、
後にも先にも「28」は、
欠番である...。

その「ミグ28」を演じたのは、米国製の
「F-5 タイガーⅡ」戦闘機で、米海軍で
仮想敵機として実在したものが
撮影用に使われた。
ボディは鋭く、黒く
塗られ、実に悪質そうな機体だ。
本作品での「F-5」の存在感は意外と大きく、
動型機の同色プラモデルが発売
されるなど、人気を博した。
訓練基地での敵機役には、「A-4
スカイホーク攻撃機」が使われ、広大な
砂漠上空で繰り広げられる「F-14」との
ドッグファイト(空中戦)は、決して
侮れないシーンであった。
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「A-4」は、小型の
機体ゆえ、小回りがきく。比較すると、
「F-14」が、いかに大型の戦闘機であるか
も分かる。目が離せない、そんな瞬間が、
ミリタリー・ファンにはたまらない...。
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【空母艦上のリアル
トップガンは存続】
知られざるキャリア・オペレーション
(空母艦上での航空機運用)を
本格的に映し出したシーンは画期的だった。
カタパルトにより、空母からの発艦、フックを
使って着艦する迫力映像に、釘付け
になったのである。

空母艦上で働く
甲板員の姿、身体を使った動きにも注目
が集まり、特に「発艦サイン」を出す
クルーの真似が流行った...。
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台本上、主人公たちが作戦で
乗艦する空母は、「エンタープライズ」と
されたが、実際にロケで使われた艦は、
空母「レンジャー」であった。 ![]()
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じつは、マーヴェリックのフライトスーツには
”RANGER”のワッペンが付いており、
ファンは細かいパーツまでチェック
したものだ。
同艦は、93年まで現役で
任務に就いていた...
なお、「F-14」は、全米の海軍飛行隊
から06年にすべてが退役し、その後、
作戦には投入されていない。 ![]()
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また、現在「トップガン」と呼ばれる部門は、
ネバダ州ファロン基地に移転し、「航空戦
センター・戦闘攻撃機戦術教官
課程」という名称に変わっている。
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【健在するミラマー基地
ロケ地巡りは今も...】
筆者は95年、初めてミラマー
基地を訪れた。『トップガン』のロケ
地訪問とあって、ワクワクしたものだ。
映画に出てきた風景は、その
ままであった。マーヴェリックが、カワサキバイク
(GPZ900R)をかっ飛ばした ![]()
場所もわかり、広大な砂漠地帯に位置
する基地の雰囲気を感じることができた。
また、基地関係者が多く暮らす
サンディエゴの街並みは、ミラマーから
ほど近い距離にあり、こうしたシーン
の設定も実にリアルで興味深いもの
であった...。
ミラマーで開催された航空
ショーでは、F-14、F-5、A-4を
含め、米軍の戦闘機、攻撃機のフライトを
多数、間近に見ることが出来、爆音に
酔いしれたのである...。
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しかしながら、初訪問の時点で、
現実の「トップガン」は、ミラマーから
ファロンへ移動した後だった。
米ソ冷戦が終わり、
海軍は軍事予算削減の
あおりを受け
西海岸の基地を再編しつつ
あった。
ミラマー基地は「海軍基地」から
「海兵隊基地」へと変換を遂げて、
現在に至っている。
「トップガン」のロケ地は、まだ他にも
健在だ。

サンディエゴ市内でロケに
使われたレストラン「カンザスシティー・
バーベキュー」は、今もオープンしている
と聞く。
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新作「トップガン・マーヴェリック」
が公開された折りには、新しいロケ地を
めぐるツアーを、ぜひ楽しみたい...。
(坪田敦史)
パイロットの資格を持つ航空ジャーナリスト。飛行機、
旅客機、空港、軍用機、航空旅行、航空技術などを、
テーマに、ライターとして雑誌、単行本などで執筆。
日本テレビ「世界まるごと特捜部」の
航空映像の監修を筆頭に、テレビ番組におけるコメント
および番組制作なども行う...。

備考:この内容は、
2022-3-19
発行:三栄
「'80s映画大解剖」
より紹介しました。
(編集後記)
ところどころ、
サブリミナルが入った点、
お詫びします。
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