映画界アメリカ現地レポート「全米脚本家組合のストライキがついに終結へ」...

「全米脚本家組合のストライキがついに終結へ」

俳優組合ストはどうなる？

報酬など待遇改善、AIをめぐる今後の諸問題の方針などを

製作者側と交渉・決定するために始まった

「全米脚本家組合」と「全米俳優組合」の歴史的ストライキ。

先日、ついに脚本家のストが、暫定的合意を見て、

終結に向かいましたが、

俳優組合の方針はどうなるでしょうか？

ストの行方と、10月初旬時点であきらかに影響が出ている

アメリカ映画会の裏事情を、

現地からレポートしましょう。

「パラマウント社前で脚本家組合員も

俳優組合員も、そろってスト行進をしていたが...」

【脚本家組合ストの終結が、

即、俳優組合にも

波及するとは限らない？】

2023年5月2日から始まった

全米脚本家組合（WGA）のストライキが、

9月27日に終結した。

WGAは、大手

映画会社などから構成されている映画

テレビ制作社同盟（AMPTP）と協議

を重ねてきたが、9月25日未明、双方が

合意に達し、4ヶ月半以上に及ぶ

ストライキにようやく終止符が打たれた。

「街頭ストライキに参加した

アニャ・テイラー＝ジョイ」

WGA、AMPTP間の最終的な

交渉で決まった条件としては、①脚本家

に対する報酬額を値上げする。②

配信作品については配信会社はWGA

に対して各作品の視聴数を明らかに

する。③TV番組のために雇用される

脚本家の最低人数を保証する。④脚本の

制作にあたって人工知能（AI）を

使用する場合は、雇用する脚本家に

その旨をあらかじめ提示する。などがある。

最後の項のAIについては、その

テクノロジーが日進月歩であるため、

WGA、AMPTP双方とも不利な

条件を制定したくないということで、

交渉が難航したそうである。

「フローレンス・ビューも

看板を持って行進」

WGAのストライキが終結した

ことで、WGAに後追いするかたちで

7月24日に始まった全米俳優組合

（SAG-AFTRA）のストライキも解決

へのプロセスが早まるのではないか、

という見方もあるようだが、WGAが

AMPTPから取り付けた条件自体、

手放しで喜ぶべきものでもないという

意見もある。

例えば、WGAのストライキが

集結した翌日の9月28日付のロサンゼルス・

タイムズ紙の論説欄に投稿

した俳優のネルソン・チェンは、WGA

が同意した条件がかなり妥協して

いるものだと論じる。配信作品に

関する契約では『配信会社はWGAに対し、

Netflixのオリジナルシｒーズ

のような高い予算で制作された作品の

国内及び海外での視聴時間の情報を

共有する」としているが、WGAが当初

要求したように、視聴時間に基づいチェ

residualsと呼ばれる再使用料が脚本家

たちに支払われるとはされていない。

「ストを終えたWGAの看板には、

”1つの戦争には勝ったがまだ終わりではない！

さぁ、俳優組合も続こう！”と、書かれている。」

チェンは、『これでは視聴時間の

データを取得しても何のトクにもなら

ない。また契約では多く視聴された

作品の脚本家にはボーナスが支払われる

とあるが、それも一定の視聴数を

クリアしなければならず、それに

達しない作品の脚本家たちにはビタ

一文も支払われない』と指摘する。

一方、SAG-AFTRAは、最低報酬基準

を引き上げ、労働条件を改善すると

同時に、配信作品の収益の2%の分配金

を要求しているそうで、チェンは、

今年の8月にプロバスケットボール

協会（NBA）に対して選手たちが

取り付けた、NBAが得る収益の49%～

51%の分配金を選手たちに支払うという

契約と比較。『我々は収益の51%を

要求しているわけではない。我々が

要求しているのは2%だ。

「ロサンゼルス・タイムズに

投稿したネルソン・チェン」

WGAは

それさえ獲得できなかった。我々には

WGAよりよい条件で交渉する時間

の余地がある』と、WGAのような

妥協を許すべきでないと主張。SAG-

AFTRAのストライキは、組合が

提供する健康保険に加入するために必要

とされる2万6470ドルの年収

さえ得られない自分のような無名俳優が、

人並みに生活できる収入が得られる

ことをゴールにして闘うべきだと結論

づけている。

【ストの期間中、広報活動に参加した

スターたちもいたが...】

「スト期間中にベネチア国際映画祭に

参加したアダム・ドライヴとマイケル・マン」

SAG-AFTRAは、7月に

ストライキに入って以来、まだ一度も

AMPTPと正式な交渉をしておらず、

WGAのストライキが取穴したことで

近いうちに協議の場が設けられること

が予想されている。

そのイップで、SAG-AFTRAは

7月28日の協議で、AMPTPに加盟

していない独立系プロダクション会社

の作品の製作や界製作の広報活動など

に、組合員たちが参加することを許可

する仮協定を締結。製作や広報活動に

参加してこられなかった俳優たちが

活動を開始した。

たとえば、マイケル・マン監督の新作

『Ferrari』は大手映画会社による製作

ではないた、え、仮協定の対象となり、

同作がヴェネツィア国際映画祭で

ワールド・プレミア上映された際には、マン

とともに出演者のアダム・ドライヴァー

やパトリック・デンプシーらがプロモ

ーションのために上映に出席した。

同様にヴェネツィアlk億歳映画祭に出席

していたのは、ジェシカ・チャステイン

とピーター・サースガード。2人

は、『ある終焉』（2015）などの作品

で知られるメキシコ出身の監督ミシェル・

フランコの新作『Memory』に出演

しており、同作のプロモーションの

ために、同映画祭やトロント国際映画祭

に出席した。

「ベネチアには、ジェシカ・チャスティンと、

ピーター・サースガードもやってきた」

チャステインは、仮協定についてX

（旧ツイッター）で、「独立系プロデューサー

たちの大部分が進んで仮協定条件が

非現実的で法外だというAMPTPの

主張が間違っていることを証明する

ことになる。それと同時に、仮協定は

ストライキの間、働けなくて苦しんで

いる映画製作クルーに仕事の機会を提供

する。こうすることによって、ストラ

イキの対象となっている会社に圧力を

かけながらストライキの課題を前に

進めていくことができる。他のやり方では

こうはいかない」とつぶやき、仮協定

を多いに評価するスタンスを取って

いる。

【製作がストップしている作品、公開日延期を

アナウンスした新作群】

「今年公開予定だった”デューン　砂の惑星”

続編は2024公開に延期」

写真は、今年のCinema Conでプレゼンした主演の

ティモシ・シャラメ、ドゥニー・ヴィルヌーヴ監督、

共演のゼンデイヤ」

独立系プロダクション会社の作品とは

対照的に、大手映画製作の作品は、

製作が中断。企画中だった作品は、

WGAのストライキが集結したことで、

脚本家の作業は再開できるだろうが、

キャスティングなど俳優が関わる作業

は停止中。撮影中だった作品は撮影が

停止したままだし、完成済みの作品は

出演俳優たちがプロモーション活動に

参加出来ないので公開延期を余儀なく

されている。

　

撮影が中断している作品には、『ス

パイダーマン」シリーズを手がけて

きたジョン・ワッツが監督しブラッド・

ピットやジョージ・クルーニーなどが

出演している『Wolves』、「アバター」

シリーズの3、4本目、『デッドプール」

の3作目、そして1作目の公開

から35年後に制作されている「ビートル

ジュース」の続編などがある。ティモ

シー・シャラメ主演でジェームズ・

マンゴールドが監督するボブ・ディラン

の伝記映画『A Complete Unknown』や

ピクサー・アニメーションの

『インサイド・ヘッド』の続編などは、製作

準備中の段階で進行が停止している。

　

TVドラマや配信作品も同様で、

「ストレンジャー・シングス」や「アメリカ

ン・ホラー・ストーリー」、「イエロー

ストーンなど人気シリーズの新

シーズンの製作は停止中で、いつもなら

夏休み明けの9月～10月に続々と新シー

ズンのエピソードが放送されるのだが、

今年はリアリティTV番組の放送

ばかりが目立っている状態である。

前述したように、俳優による大手

映画会社のプロモーション活動も

ストライキの対象なので、大手映画会社

がキャストのプロモーション活動が

必須だと考えている作品などは、

公開が延期されている。

ほんの一例だが、2023年9月15日に公開が

予定されていたゼンデイヤ主演、

『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダ

ニーノ監督のロマンティックコメディ

『Challengers』は2024年4月26日に、

11月3日の公開が予定されていた

『デューン　砂の惑星PART 2』は

2024年3月15日、12月20日に

公開が予定されていた『ゴーストバスターズ/

アフターライフ』の続編

（タイトル未定）は2024年3月29日にと、

それぞれ公開日が延期された。話題作

の公開日に変更があると、他社作品の

公開にも影響が出ることがあるので、

2023年秋から2024年の春にかけては、

興行界も公開時期調査にも忙しくなるので

はないだろうか...？

10月2日の時点ではSAG-AFTRA

のストライキ終結がいつになるのか、

まだまだ不透明な状況だが、映画界

で働く人たちのためにも、映画ファン

のためにも、1日でも早く契約同意書に

こぎつけてもらいたいものである...。

備考：この内容は、

2023-10-21

発行：近代映画社

「SCREEN 2023年12月号」

より紹介しました。