【超能力遠隔●人...】
人のエネルギーというのは、
同じ環境が続くと、どんどん低下していくものだ。
私のように、超優秀な人間でも、
その例外ではない。むしろ、低俗的な
暮らしから、一歩進み、日夜、学問の探求に
勢力を進めている私だからこそ、
変化に富んだ生活が、必要なのかもしれない...。
そこで、私は、都内の某結婚相談所を
訪れた。むろん、真剣かつ厳粛に
将来のワイフを見つけるためだ。また、
結婚してから数年後には子どもを もうけ、
私の一流の遺伝子を、後世のために
残しておかなければならないという使命もある。
そして、その前段階において、
行われる行為(一般的に●●●と
呼ばれているものだ)も、私がするとなれば、
たちまち高次の社会的意義を持つこと
になる。私は、以前からそれを見越して
ひとりで、こまめに修練を
積んできているのだ...。
相談所で待つこと数十分。
私の前に3人の女性の写真が並べられた。
いずれの女性も、甲乙つけがたく、私と
相性がいい。コンピューターが
そう引き出してしまったという...。
それから、21時間後、どの女性にしようかと、
ずっと悩んでいた私のところに、
助手として使ってやっている山田が、
呼んでもいないのに現れた。
「上田先生様、あまりの空腹に耐えかねて、
つい、ここに来てしまいました。どうか
貧しい私に、わらびもちをひと口、いや、
3分のひと口でも、
お恵みください...」
などと、言いながら、すり寄ってくる。
その直後、今度は警視庁の矢部刑事が
研究室にやってきた。
最近、警察は私を頼りすぎだ。何かというと、手に余った
事件を、私のところに、持ち込もうとする。
日本が誇るこの頭脳を、ばかばかしい
事件のために使うのは、世界的な損失
であることに、気づかないのだろうか?
今度ばかりは断ろう。私は心に、そう
決めていた。しかし、その時、持ち込まれた案件は、
私の予想に反していた。
「黒坂美幸」という美女!
を、連れてきていた
矢部刑事は、私に彼女と、一晩ともに
すごしてほしいと、頼んできたのだ。
そうか、警視庁が、そこまで言うのなら、
仕方ない。常に多忙な私だが、善意の市民として
協力してやろう。私は、とりあえず、
●●●の件...。
もとい、
結婚の件は、先送りにして、
この美女に関わる事件に
取り組むことにした。
「霊能力で3人の人間を●す」。
黒坂美幸は、そう宣言していた。そして、
本当に霊能力で人を、●したということを
証明するため、自分をひと晩、監禁し、
監視してほしいと言う。
監禁といえば、縛ったり、
口にピンポ●をくわえさせたり、
ロウ●クを垂らしたりと
いうことが、当然、必要になってくる。
自分のマンションに帰れば、ひと通りの道具は、
揃っているのだが、
(もちろん、研究資料として)、
今回は、私がプライベートで、
所有している研究室を使うことにした。
万が一を考えて、彼女が事前に、何も
細工できない場所を選んだのだ。
こうして私は、コバンザメの
ようについてくる助手の山田とともに、
「黒坂美幸」の監視を始めることになった。
程なくして、彼女は動き始める。突然、
首を締めるパントマイムのような
パフォーマンスを始めたかと思うと
次には、
「梅木隆一という男を●した」と言うのだ。
勇気と行動力あふれる私は、
研究室に2人を残し、美幸が指定した
”●体遺棄”の場所へと急行した。
そこには、本当に無残な●と化した
梅木という男の●体が、横たわっていた。
私は、すぐさま警察に連絡を入れたのだが、
なぜか、その通報は、私が●体を発見
してから数10分、経過していたらしい。
不思議なことだが、まぁ おそらく警察側の
勘違いだろう。まさか、この私が気を失って
いたというわけでもあるまいし、
はっはっはっ...。
その後、警察の調べで、凶器のベルトから
美幸の指紋が検出され、ガイシャが
握っていた髪の毛も、彼女のものと一致した。
しかし、●●推定時刻、たしかに
彼女は、私たちと一緒にいた。
ならばなぜ? どうやって彼女は梅木を?
●せる時間など、彼女にはなかったはずだ。
正直に告白しよう。その時点で私は
まだ黒坂美幸が、使ったトリックを正確には、
理解していなかった。いや、実際は
トリックなどというには、おこがましいほど、
馬鹿馬鹿しい”仕掛け”
だったのだが...。
備考:この内容は、
2002-11-30
発行:学習研究社
著者:上田次郎
日本科学技術大学教授・
上田次郎の
「どんと来い、超常現象」
より紹介しました。