【バリアの厚さは39m!...】
100万度のプラズマでバリアを作った
としよう。100万度とは、太陽の
大気と同じである。
この温度ではどんな物質も蒸発してしまう
のだが、物体がプラズマに触れた
からと言って、瞬間的に温度が100万度に
なってしまうわけではない。
バリアを
通過する時間が短ければ、物体に移動する
熱量が限られるため、温度の上昇にも
限りがある。侵入した物体を溶かしたり
蒸発させたりするには、バリアの厚みが
問題になってくるわけだ。
ところが『マジンガーZ』の画面を
見る限り、光子力研究所のバリアは、
きわめて薄い。
どんなに厚く見積もっても、
せいぜい1mといったところだ。
このバリアでは、敵のミサアイルが
マッハ3で飛んできた場合、わずか
0.00098秒で貫通されてしまう。
ミサイルが鉄でできているなら、表面の2.6mm
が蒸発するだけで、おそらくミサイルの
機能には何の影響もない。ほぼ無抵抗で
光子力研究所は壊滅する。
直径20cmの砲弾を蒸発させるには、
100万度のプラズマに0.038秒間
触れさせなければならない。
すると、バリアの厚さは39mが
必要だ。これより
薄ければ、砲弾は溶けるだけで、
蒸発には至らず、灼熱した
鉄の雨が降ってきて、
より広い範囲に、より大きな被害が
出ることになる。敵の攻撃の威力を自分のバリア
で増大させてど~すんだ!?
しかも、このバリアは空気に
触れさせてはならない。
プラズマのエネルギーが
空気に奪われ、通常の原子に戻って
しまうからだ。
ガラスなどで作られた容器に
封入して空気を遮断する必要があるが、
エネルギーの流出を防ぐには、そのガラス
容器に接触させることも許されない。
これを乗り超えるには、プラズマが
強い磁場から抜け出しにくいという性質を
利用するしかない。
具体的には数10mの隙間を
持った2重のガラス瓶を
光子力研究所にかぶせる。
ガラス瓶の至るところに
電磁石を置き、隙間の空気を
抜いて、そこに100万度の
プラズマを流し込むのだ。
このシステムの素晴らしいところは、
最初に示したバリアの条件の②と③を
クリアしている点だ。つまり、光って
くれるし、割れてくれる。
だが、割れてしまったら、当然この
バリアの寿命は尽きる。
ガラスを割って
プラズマ内部に飛びこんだ1発目の砲弾を
蒸発させることはできるが、防げるのは、
その砲弾のみである。
割れ目からプラズマ
が流れ出し、空気に触れてエネルギー
を奪われ、消えてしまう。
さらに続く
敵の攻撃に、残ったガラスだけで耐えなけ
ればならない。
つまり、プラズマバリアの命は、ガラス
瓶の強度なのである。
プラズマの温度や
厚みよりも、ガラスを強化することに
腐心するほうがよっぽど現実的だという
事になる。
プラズマは中で光っている
だけで、その本領が発揮されるチャンスは、
ガラス瓶が安泰である限り永遠にこない。
切ないジレンマだ・・・。
備考:この内容は、
2016-12-2
発行:(株)KADOKAWA
著者:柳田理科雄
「どっちがすごい!?空想科学読本」
より紹介しました。