「母乃泉」では、予想以上に信者の
洗脳が進んでいるようだった。
以前から、集団生活を送っているという古株の
信者たちは、一見、一様に、はつらつと
している。
だが、私には、それが、どれだけ
歪んだ明るさであるかということを、
ありありと見て取ることができた...。
私は、早々に、美和子女史を連れて
この場所を去ろうとした。しかし、
自分の不注意から、息子を●なせてしまった
という傷を抱えた彼女は、なかなか
「母乃泉」を出ようとはしない。
いいだろう...。
それでは、彼女が信じる教祖・澄子と
触接対決し、そのUSOを白日の下にさらして、
美和子女史を正気に戻した後で、
家に帰るまで。だが、
その対決については、
私自身がやったのでは
あまりに不公平と、言わざるを得ないだろう。
なぜなら、超一流の知識人である
私が、単なるペテン師にすぎない澄子を、
打ち負かすのは当然のことだからだ。
つまりは、”格が違いすぎる”ということ。
そこで、私は、その対決の役割を
つまらない手品で、人を欺くことに長けている
”山田奈緒子”に、やらせてみることにした。
レベル的には、彼女ぐらいで十分だろう。
もちろん、バックには、私が
ついているのだから、何ら問題はない...。
澄子が、まず用意したペテンは、信者が、
書いて自らに封筒にしまった悩み事を
封筒を明けずに読み取る。というものだった...。
ふん、この時点で、いかがわしい
こと、この上ない。
私は、都の大会で、最優秀賞を、
とったこともある達筆で、
「早くペテンを認めなさい」と書いて
封筒を提出した。
案の定、澄子は、封筒を開ける前に、言い当てたのだが、
私は、彼女が、どうしてそんな芸当が出来たのか、
もちろん即座に理解していた。
しかし、助手の”山田”などは、
「澄子には、やはり霊能力があるのでは、
ないでしょうか? 上田様」
と、慌てふためいている始末。
私は、単純で解説することさえ、
面倒なこのトリックを、後で、
トイレに呼び出した山田と美和子女史に
わかりやすく説明してみた...。
澄子は、最初の信者の
悩みを言い当てた後、
それを確かめるため封筒の
中の手紙を読んでいた。
しかし、実際、その封筒は、
次の信者のもので、澄子は
最初の信者の悩みを、
単純な推理で言い当てた後、
さも、中身を感じ取ったように
次々に読んだ手紙の内容を、告げていた
だけなのだ。
これは、「ワン・アヘッド・
システム」といって、大道芸人などがよく
使うくだらないお遊びに過ぎない。
一般的な知識しか持ち合わせていない人間は、
だませても、私にかかっては
ひとたまりもないということだ...。
備考:この内容は、
2002-11-30
発行:学習研究社
著者:上田次郎
「どんとこい、超常現象」
より紹介しました。