JRの本線と言えば、新幹線との並行路線
でもないかぎり、特急列車や、長い編成の貨物列車が
頻繁に走っている、といったイメージをもつ
のではないだろうか?
一部には、本線の名称を返上しても、
おかしくないような、名ばかりの本線もあるが、多くの
本線は、上のイメージと、さほど、かけ離れた
ものではない。
当然、普通列車も、それなりの本数が確保
されているように思われよう。
ところがである。特急列車が、頻繁に通過
する本線でも、一部の区間で普通列車の本数が、
極端に少なくなるケースがある。
例えば、九州は、日豊本線の佐伯~延岡間。
時刻表で下り列車を見てみると、特急列車は
定期のものが、14本もあるのに対し、普通列車は、
わずかに4本。
佐伯~延岡間を通る列車
となると、3本しかない。
佐伯駅で6時23分発の
延岡行きを逃すと、17時20分発の南延岡行きまで
普通列車は皆無なのである。
似たような事例は、他の本線にも見られる。
山形新幹線「つばさ」号が、1時間に1本の
割合で通過する奥羽本線の庭坂~米沢間も、
普通列車の本数は、上り下りとも6本ずつ。
庭坂駅から米沢駅に向かう場合、朝8時16分発の
列車を逃すと、13時16分まで、待たねば
ならない...。
田沢湖線の赤渕~田沢湖間も、なかなか
凄みがある。
本線の名称もなく、幹線とされていないので、
異論はあろうが、この線は、ご存知のように
秋田新幹線「こまち」号の通過ルートであり、
実質的には、本線といっても過言ではない存在だ。
赤渕駅から、田沢湖駅へ行こうとする場合、
朝5時53分発の大曲行き普通列車を逃すと、次は
14時51分までない。そして、その次は18時33分発で、
これが、終電となる...。
逆の田沢湖駅から、赤渕駅へ行くのも、
似たようなもの。6時46分、7時41分と連続して発車
するところまではよいのだが、後は、15時44分まで
1本も走らない、そして、次の17時12分発が、
終電となる。
つまり、赤渕~田沢湖間の普通列車は下り3本、
上り4本という、実に質素な体制だ。
「こまち」号が、1時間に1本走るのに対し、あまりにも
差が激しすぎるといえば、そうなのである。
どうして、こんなことになって
しまったのだろうか...?
その答えは、時刻表の
「さくいん地図」にちゃんと載っている。
例に上げた3区間を、「さくいん地図」で、
よく、見ていただきたい...。
「なるほど、そうだったのか!」
もう、お気づきのことと思う。要するに、
といっても、ナニかを要約するわけではないが、この
3例は、県境越えや、都市間のビジネス客を相手に
した特急列車ならば、県境など特に影響はないが、
地域の住民、特に高校生などの輸送が
中心の普通列車の場合、そうはいかない...。
県境を超えて通学する人など、ごくまれで
あるし、お年寄りの通院などの需要も、ほとんど
ない。このような要因が、普通列車の本数に
現れ出るというわけでもある...。
もっとも、首都圏や関西圏のような都市部では、
県境など、あまり関係ないが、地方へ行けば、
それが歴然とする。
ただし、地方でも、県同士で、交流の深い
ところもある。例えば、青森県の「津軽」地方と
秋田県、同じく青森県の「南部」地方と岩手県。
そして、県境を超え1つの経済圏を形作っている
地域。岡山県西部と、広島県東部の瀬戸内海
沿岸部などでは、普通列車の本数による県境現象は、
現れにくい...。
このように、時刻表と鉄道地図があれば、
県同士の交流の状況まで、ある程度は把握出来る
のだから、おもしろい...。
さて、特急列車こそ少ないが、普通列車が
頻発している、東海道本線も見てみよう。最も
運転本数の少ないのが、大垣~米原間である。
日中は、1時間に2本程度しか運転されていない。
「けっこう走っているじゃないか!」
と、思われる人もいようが、他の区間に比べれば、
ここだけ、極端に本数が少ないのである。
その理由は、もう、おわかりだろう...?
途中の、関が原付近が、岐阜県と滋賀県の県境にあたり、
さらには、中京圏と、関西圏の圏境(?)
になっているからである...。
備考:この内容は、
2009-11-30
発行:KKベストセラーズ
著者:所澤秀樹
「つい誰かに教えたくなる鉄道雑学」
より紹介しました。