【お父さんの愉しみ...】
近頃、お父さんの様子がヘンです。
会社から帰ってくると、ふさぎこんで、
話も、ろくにしません。
直子さんは、お母さんに聞きました。
「お父さんの様子が、おかしいわ。
会社で、何か あったのかしら？」
お母さんは、直子さんの耳元で、
そっとささやきました。
「実は、今度の人事異動で、お父さんは、
資料部になったの。つまり窓際になっちゃった
みたいよ。ショックだったんで
しょうね。あんまり元気がないもんだから、
同期の山田さんが、心配して電話をくれて...。
それで、母さん、はじめて知ったの。
元気になるまで、しばらく、そっとして
おいてあげましょうね」
こうして、直子さんも、お母さんも、
お父さんには、いつも通り接することに
しました...。
夜7時20分、その日も、いつもどおり、
お父さんは、家に帰ってきました、駅の売店で
買ったのか、カバンと、一緒に
週刊誌を抱えていました。そして、食事の後、
お父さんは、自分の部屋に、こもって
しまいました...。
「母さん！ お茶。それと、ツマヨウジ！」
めずらしく、お父さんは、お母さんに、
声をかけました。お母さんは、にっこりして
熱いお茶と、ツマヨウジ入れを運んで
いきました。
直子さんは、お母さんに、お父さんの
様子を聞きました。
「なんか、熱心に週刊誌を読んでいたわ、
よっぽど、気になる記事でもあった
のかしら...？」
翌朝のお父さんは、昨日とは、見違える
ように元気でした。”やっと、もとのお父さんに
もどったんだ！” 直子さんもお母さんも、
ほっと胸を、なでおろしました。
直子さんは、お母さんの言いつけで、
お父さんの部屋を掃除することになりました。
敷きっぱなしの布団と、脱ぎっぱなしの
パジャマを片付けた後、机の上に
目がとまりました、
机の上には、折れたツマヨウジが 7、8本、
散らかっています、横には、昨日の
週刊誌がありました。
直子さんは、ツマヨウジを片付けながら、
週刊誌のページを
ちょっとめくって
見ました。
「あっ！」
直子さんは、次のページも...。
その次のページも...。
全部のページを、一気にめくりました。
そこにあった週刊誌は、美しい
モデルも、凶悪犯人とも、みんな目の所に鋭く
突いたANAが、開けられていました。
7時20分、お父さんが帰ってきました。
今日も手には、1冊の週刊誌があります...。
（今後の投稿予定）
うるさい弟...。
お姉さんのお風呂...。
お爺さんの奇跡...。
おばさんの憂鬱...。
お母さんの料理...。
直子さんの逆襲...。
備考：この内容は、
1995-8-5
発行：KKベストセラーズ
著者：滝口ちえ
「子どもの読めない童話
怪談50連発！」
より紹介しました。