車は、車庫に収まった。
落合は、ライトを消し、エンジンを切った、
男が車から降りて、助手席のドアを開けた宏子は、
腕を掴まれて、引きずり降ろされた。
宏子の顎に、ナイフを持った男の片腕が、巻き付いた。
「乱暴は止してくれ。言うとおりにしてる
じゃないか!?」
落合は車を降りた。
男は足で蹴って、助手席のドアを閉めた。
玄関の灯かりがついた、車の音に気がついて、
落合の妻の直子が、玄関に出たようすだった。
落合は、胸が苦しくなった。
男は落合を先に歩かせた。宏子は、顎を抱えられて、
後ろから押されて歩いた。
「おれだよ」
落合の声が、うわずった、中から、玄関のドアが
開けられた。
「おかえりなさい...」
直子は、ネグリジェの肩を、すぼめるように
していた。その顔は●しげな表情に変わった、
落合の腰に、男の濡れたズックが飛んできた。
落合は、直子にぶつかって、よろけた、直子は
下駄箱に腰を打ち付けて、声をあげた。
男が宏子を押し立てて、
中に踏み込んだ、玄関の扉が、
音を立てて閉められた、男は鍵を掛けた、
チェーンをかけた。
「何なのよ?どうしたの? あなた、
この人たち、誰?」
奈緒子は怯えた目に、なっていた。
「落ち着け、直子、後で話す、厄介なことに
なったんだ」
「奥に行け! みんな。
寝てるやつは、みんな叩き起こして、
ひと部屋に集めろ!」
男が、低い声で言った。
「他には、家の中には、誰もいないよ」
「ガキが、いるだろう?」
子どもたちは、春休みで、田舎のおばあちゃんの
ところへ行ってるんだ」
落合は、直子の背中を押した、靴を、脱いで上がった....
「部屋を全部調べる。一緒に来い。2人ともだ!」
男は、宏子の顎を、抱えたままだった、宏子の
顔から血の気が失せていた、顔の前にナイフが
かざされていた。
落合は、直子をせき立てて、先に行った、
「でけぇ、家じゃねぇか? 銭もあるな?
これだけに家だから...」
「金が要るんだろう? 逃亡生活が始まるんだから、
家の中の現金を集めれば、、10万か15万は
ある、みんなやるから、出てってくれないか!?」
「逃亡生活か? カッコいいこと言うじゃねぇか!
おっさん!」
男は、かすれた声で笑った。直子が男を振り向い、
彼女は、納得した顔になった。テレビの
ニュースで、千葉の少年院の脱走事件を聞いて
いたようすだった、直子の確かめるような
無言の視線が、落合に向けられた、落合は、目顔で、
小さくうなずいた...。
「電話は、親子かよ?」
男が最後に覗いたのは、2Fの夫婦の寝室だった。
落合はうなずいた。
「切り替えは、どこに付いているんだよぅ?」
「下のリビングルームだ」
「よし! そこに行け!」
落合たち3人は、今の床に並んで座らされた...
備考:この内容は、
1985年
発行:廣済堂出版
著者:勝目梓「鮮血の宴・
●意の部屋」
より紹介しました。