第⑤位 「鋼の錬金術師」
エドワードが、トロッコいっぱいの石炭ガラを金に!
エドワード・エルリックは、国家錬金術師。
弟のアルフォンスとともに、母を生き返らせるため、
そして、失った自分たちの体を取り戻すために
「賢者の石」を探す旅を続けている。
不正や横暴に、
あえぐ人がいると、救いの手を差し伸べるが、
それでも、錬金術の大原則である「等価交換」
という姿勢は貫き、ただで救うことはしない...。
旅の途中で2人は、ユースウェル炭鉱を訪れる。
炭鉱の人たちは、重税と低賃金に苦しんで
いた。街を統括する軍人・ヨキが、炭鉱経営の
全権をも握っていたからだ。
2人が滞在する間にも、
ヨキの横暴は繰り返された。
静かに怒りを燃やしていたエドワードは、
ついに行動に出る。国家錬金術師の禁忌を破り、
トロッコいっぱいの石炭ガラを「金」に変え、
その金塊で、ヨキから炭鉱を買い取って、経営権の権利書
を、街の人にわたす。等価交換の対価は、
「1泊2食2人分の料金」だった...。
この胸にしみる話の、どこが問題なのか?
それは、石炭ガラを金に変えたこと。もちろん、
国家錬金術師法に触れるからではなく、科学の話だ。
石炭ガラから金を作ったということは、
石炭ガラに含まれる、炭素、ケイ素、酸素などの元素を、
別の元素である金に変えたということだ。
元素の種類を変えるには、エネルギーが必要であり、
反応の結果、投入したエネルギーより大きな
エネルギーが出てくることもある。
そして、炭素、ケイ素、酸素が、
金に変わる反応では、莫大な
エネルギーが出てきてしまうのだ。それは、熱に
変わって空気中に放出され、大爆発を引き起こす!
アルフォンスの見立てでは、石炭ガラは
「1tか...2tくらいあるんじゃない?」という量
だった。そのうち10%が炭素で、残りが、ケイ素
だったとすると、爆発の規模は、1tの
とき、ビキニ水爆 0.5発分、2tだったら 1発分!
もちろん、物語では、そんな爆発は
起こらなかった。
おそらく、エドワードは、元素の種類を
変えられるだけではなく、エネルギーを操作する
こともできる...
のだろうなぁ。
アインシュタインの相対性理論によれば、
エネルギーは、物質に変わり得る。
石炭ガラ 1tから、作ったビキニ水爆 0.5発分の
エネルギーは、328gの金になります...。
備考:この内容は、
2016-3-25
発行:KADOKAWA
著者:柳田理科雄
「空想科学読本 17」
より紹介しました。