結局、野球部の定義は、わからず終いだった。
そこで、みなみは、もう一度『マネジメント』
を、初めからじっくりと読み返してみた。本の中に
書かれていることの意味を、もう一度
しっかり読み取ろうとした。
すると、そこには、こうあった...。
企業の目的と使命を定義するとき、出発点は
1つしかない。顧客である。顧客に
よって事業は定義される。事業は、社名や定款や
設立趣意書によってではなく、顧客が財や
サービスを購入することにより、満足させようと
する欲求によって定義される。顧客を
満足させることこそ、企業の使命であり目的
である。したがって、「われわれの事業は、何か?」
との問いは、企業を外部、すなわち顧客と市場の
観点から見て、初めて答えることができる。
(23頁)
みなみは、いつもここのところでつまづいて
しまった。ここのところでわからなく
なった。つまづく原因は、「顧客」という言葉にあった。
この「顧客」というのが、何を指すのか?
よくわからなかったのだ。
もちろん、言葉の意味はわかった。それは、
簡単にいうと、「お客さん」という意味だ。
しかし、それが、野球部に、どう当てはまるのかが、
わからなかった。野球部にとって、「お客さん」
というのが、誰を指すのかわからなかった...。
『マネジメント』には、続けて、こうあった。
したがって、「顧客は誰か?」との問いこそ、
個々の企業の使命定義するうえで、
もっとも重要な問いである。
(23~24頁)
...本当に、「顧客」とは、いったい誰なんだろう?
みなみは、考えた。
野球部は、そもそも営利団体ではない。
取引相手や、お客さんがいるわけではない。
もちろん、試合をすれば、お客さんは見に来るが、
自分たちが、彼らから、お金をもらっている
わけではない。お金をもらわないことが、
高校球児の大前提だったりするくらいだ。
それでは、野球部にとっての顧客とは
いったい誰なのか? それでも、球場に見に来る
お客さんが、そうなのか?
しかし、それは、やっぱり違うような
気がした。野球部の定義が、「野球をすること」では
ないように、野球部の顧客が、「試合を見に
来るお客さん」というのも、やっぱり正しく
ないような気がしたのだ...!
『マネジメント』には、「顧客は誰か?」を
問うことについて、こうあった。
やさしい問いではない。まして答えの
わかりきった問いではない。しかるに、この問いに
対する答えによって、企業が自らを
どう定義するかが、ほぼ決まってくる。
(24頁)
ドラッガーのいうように、それが、
「やさし問いではない」ことだけは、よくわかった。
しかし、肝心の答えが出ないままでは、
そこから先へ進めなかった。そのため、みなみの
マネジメントは、ここへ来て早くも大きな
壁に突き当たってしまった...。
備考:この内容は、
2011-1-26
発行:ダイヤモンド社
著者:岩崎夏海
”もし高校野球の女子マネージャーが
ドラッガーの『マネジメント』を読んだら”
より紹介しました。