おいらたち、イヌが、目の前の食べ物に気づかない。そんな場面に
出くわしたことは、ないかい?
言っておくけど、おいらたちが、間抜けなわけじゃないぞ。イヌには、それが、
ほんとに、そこにあるってことが、わからないだけなんだ。
理由は、いくつかある。
まずは、焦点距離の問題。
おいらたちイヌの目の水晶体は、人間の2倍もの厚さがある。その結果、
遠くのものは、なんとなくぼやける。かといって、近ければ、よく見えるって
わけでもない。ピントの調節機能が、人間ほど優れてないから、70cm以内
にあるものには、ピントを合わせにくいんだ。そう、目の前にあればあるほど、
ぼやけて見えるってことさ。
おいらなんて、鼻の先に、葉っぱとか、ゴミとかが付いていても、気づかない
ことがある。そんなときは、代表が、教えてくれてとってくれる。何度も
いうけど、間抜けなわけじゃないんだからね。
次に、色に対する識別能力だ。人間たちは、赤、青、緑の3つの色に反応
する視神経と、それを認知する能力を持っているけれど、おいらたち、イヌは違う。
イヌは、橙と青の2色に、反応する視神経や、認知能力しか持っていない。
ちなみに、多くの哺乳類は、この2原色しか認知できないって言われて
るんだ。
代表いわく、パソコンの液晶表示ってのは、RGBすなわち赤、緑、青の
それぞれの色が、256の階調で表示できて、その組み合わせで色を
作れる。
つまり、256☓256☓256=16,777,216
の色が再現できるってわけだ。
見る方も、同じ原理で色を識別できるらしい...。
ところが、おいらたちは、橙と青で表示している液晶と同じ。たとえば
256階調できたとしても、256☓256=65,536の色しか識別できない。
人間と、比べると、それだけ色の識別能力が、低いわけだ。
しかも、橙ってのは、3原色だと、赤と緑が混ざった状態。これって、
おいらたちには、赤と緑の区別が、つきにくいってことを意味する。
盲導犬が、信号の違いがわからないのは、知ってると思うけど、その
理由も、ここにある。信号の青は、実際は緑だからね。
ってわけで、イヌには、フードが床や、地面の色になじんで識別でき
なくなることも、あるってことさ。
それと、もう1つ。イヌは、動くものに対しては、人間以上の視覚認知
が出来るけど、停まっているものに対する視覚認知が悪い。
さらに、イヌは、鼻の長いヤツが多いだろ? これって、ボンネットが長い
車と同じだ。人間の顔は、のっぺりしてるけど、これは、ワンボックスカーと
同じようなものだな。
ボンネットが長い車と、ワンボックスカー。どっちの○角が多いか?
考えるまでも無いだろ?
そう、イヌは、前方に対して、人間よリも、○角をたくさん持っているって
わけ。だから、何かが、目の前にあっても、見失っちまうってことがあるのさ。
「悪いことは、度重なる」じゃないけど、おいらたちが、目の前のフードに
気づかないのには、こうした度重なる理由ってのが、あったのさ...。
備考:この内容は、
2011-4-20
発行:成美堂出版
著者:西川文ニ
「もしもうちのワンちゃんが話せたら...」
より紹介しました。