【そのうえ、殴り合いだ!】
だが、正義のロボットに与えられた使命は、
歩いたり走ったりすることでは
ない。敵のロボットと、戦わなければ
ならないのである。
アニメや、特撮番組に登場するロボットは、
どれもこれも常軌を逸するパワーを
持っている。戦艦大和と比較してみよう。
大和は、全長263m、基準排水量
6万5千t、出力15万馬力である。
これに対して、
マジンガーZはの体重は、20t。
体重が3250分の1しかないにも関わらず、
パワーは、4.3倍の65万馬力と
設定されている。同じ重量で比べるなら、
マジンガーZは、大和の1万4千倍のパワーを
持っていることになる。こういう
ムチャクチャなパワーを持った機械同士が、
肉弾戦を行うのだから、乗っている方は、
たまったものではない...。
戦う以前に、ただ転んだだけでも大変だ。
真っすぐに立った状態から、そのまま
後方へ倒れたとしよう。マジンガーZが、
後頭部を打つ時、操縦席の衝突速度は、
秒速23m、すなわち時速83kmである。
兜甲児は、この速度で、コクピットの窓や
シートに叩きつけられる。
殴り倒されると、どうなるのだろうか?
敵のロボットも、同じパワーを持って
いると考えよう。馬力というのは、
1秒間に出されるエネルギーのことである。
したがって、パンチに、込められたエネ
ルギーは、敵がパンチの動作に入ってから、
コブシが当たるまでの時間によって、
決まることになる。マジンガーZは、人間の
10倍のスピードで走るのだから、機械獣の
パンチの速度も、人間の10倍だと考えて
いいだろう。
身長は、人間の10倍だから、
間合いも10倍になっているはずだ。距離が
10倍、速度が10倍なら、パンチを繰り出す
時間は、人間と同じだと言うことになる。
空手の突きは、初動から打突まで、およそ
0.5秒。65万馬力なら、この間に
放たれるエネルギーは、2億4千万J だ。
通常は、このうちの半分が、破壊に使われ、
残りの1/4ずつが、打ったほうと、打たれた
ほうの運動エネルギーに変わる。
しかし、超合金Zで、身を固めたマジンガーZが、
機械獣のパンチごときで、ぶっ壊れる
とは、思われない。すると、その代わり、
通常のロボットより、激しい勢いで、ぶっ
壊されることになる...。
2億4千万J の半分、1億2千万J が、
マジンガーZの運動エネルギーに
変わったとしよう。この場合、
我らのマジンガーZは、
時速390kmで、ぶっ飛んでいく!
最大飛距離は、1.2km。地面に突っ込む
速さも、ほぼ同じだ。操縦者は、生きた心地
がしないどころか、生きてはいまい...。
さらに無謀なことに、兜甲児は、マジン
ガーZに乗ったまま、敵に体当りすることもあった。
マジンガーZの最高速度は、
時速360km。全速力で体当たりしたと
しよう...。
恐ろしいことに、アニメで見る限り、
マジンガーZのコクピットには、シート
ベルトが装備されている様子がない。
したがって、操縦者は、体当りした瞬間、
時速360kmで、前方に投げ出され、窓を
ぶち割って、そのまま跳んでいく。窓との
衝突によって、エネルギーの10%が、失われ
たとすると、180m先の、地面に、秒速
97m、時速350kmで、投げ出されるのだ。
すべてが終わったあと、地球の平和のために
戦った若者は、泥まみれになったひき肉の
かたまりと化して、静かに転がって
いるだろう...。
備考:この内容は、
2018-11-30
発行:(株)KADOKAWA
著者:柳田理科雄
「空想科学読本 1」
より紹介しました。