【お願いするのは、3つだけ...】
私の育った地方では、お祭りなんかは、
いい加減でも、節分ばかりは、きっちり
やる。
夜は、豆を撒いた後、年の数だけ
豆を取り、
それを、近所の四辻に置く。
置いたら、後を振り向かずに帰って
来なければならない...。
この、決して、振り返ってはならない、
というところが、何だか余計に怖いのだ。
豆を置くのが早いか、一目散に逃げ帰る。
後ろを、誰か追いかけて来るような気がして、
背中が、ゾワゾワして仕方ない。怖いもの
見たさで、いっそ、振り返ってしまおうかと
何度、思ったことか...。
それで、何で、四辻なんだろう?
「何で、四辻なのかな?」
「さあ、自○者を、埋めるからじゃないかな!?」
ブルース・シンガーの彼氏に聞いてから、
ますます怖くなった。そうか、
埋まっていたのか...?
「交差点で、悪魔に会う歌があるよ!」
ついでに、歌ってくれたりして、
いよいよ怖い...。
しかし、子どものころから、欠かさず、毎年
行ってきた慣習なので、豆まきをしないのも
なんだか気持ち悪く、東京の人は、何て思うかなぁと、
思いながら、近所を気にして、小さな
声で、「鬼は外~っ」と、やった後。
さて、交差点に行くのは、
どうしようかな?
「兄ィ、付いてきてくれるよね?」
「えっ! それやるの、ホントに?」
「だって、子どもの頃から、毎年必ず、
しなきゃいけないんだもん。昨日、わざわざ
おばあちゃんが、節分は、きちっとしなさいよって、
電話で、おどかすんだもん」
「ブルース・シンガーの俺がなぜ、
そのような地方の迷信に、付き合わねば
ならんのでしょうか?」
手に豆を握り、アパートを出ると、
100mも、行かない所に、四辻はあった。
「こんなに、近くにあったのか?...
近すぎて迫力がないなぁ...」
「...怖いんじゃねえのかよ?」
「誰も、まだ、来てないね。
私達が、一番乗りだよぉ!」
「田舎者だけだってば! そんな風習、
真に受けるのは...」
年の数だけ豆を置き、さあ、一目散だ!
私は、兄ィの手を、ギューと握り、
むちゃくちゃに、駆け出した。
すると、いくらも行かないうちに...、
「あ~っ!ライター落とした!」
兄ィが、急に立ち止まったので、私は転んでしまった。
「振り向いちゃ、ダメなんだよ!」
「バカ! 親父の形見の、ジッポーなんだぞ!」
「ダメだってば!」
「平気だって...」
振り返った兄ィは、言わんこっちゃない、
「あ~っ!」
と、叫んで、棒立ちになった。
背後で、「ポン!」と、
何かの爆発音がし、辺り一面、
硫黄の匂いの煙に包まれ、
「ハーッ、ハッ、ハッハ」
男の高笑いがするので、私は、ど~しても、
見たくなってしまい、生まれて
この方、19年、
守り続けた禁を破って振り向いた。
煙の中には、手品師みたいな格好の、
背の高い痩せた男が立っていた...。
男は、兄ィに、
「おい! お前の落としたのは、金のジッポーか?
銀のジッポーか? それとも万博記念の
安物ジッポーか?」
と尋ねた。
答えられない兄ィに代わって、
「...万博記念のヤツ!」
と、私が答えると、
「お前たちは、正直者だ。3つの願いを
叶えてやろう。さぁさぁ...」
親切なおじさんは、私たちを急がせた。
急に、そんなことを言われても、欲しい
物は、あったはずだけれど、思い出せない。
「ちょっと、兄ィ! 何か、ないの?」
茫然とする兄ィを、つつくと、
「あっ、そうだ! 俺を、
ブルース・シンガーにしてください!」
目が覚めたように、そう、お願いした。
「よ~し、第①の願い、しかと、聞き届けたぞ。
......、
しかし、お前は、以前から、
ブルース・ほにゃららでは、なかったのか?」
「あ~、しまった! それは、そうだった!」
「バカねぇ!もっと、他にないの?」
「お前は、どうなんだよ!? 毎日、毎日、
あれが欲しい、これが欲しいって
言っているじゃないかよ!?」
「早く、言いたまえ、早く、早く!」
「早く言えよ! 早く、早く、早く!」
「早く、早くって、急がさないで~!」
「聞き届けたぞ。早くとは、急がせない」
あぁ、第②の願いも、これでおしまいか~!?
「バカだなぁ、ちょっと、落ち着けよ」
「そうだね、落ち着いて、2人で、考えよ~」
私は、ポケットから、探リ出した
セブンスターを加え、
「ちょっと、火ィ、頂戴!」
ポッと、タバコに火がついて、
③つの願いは、それでオシマイ...!
備考:この内容は、
1995-8-5
発行:KKベストセラーズ
「子どもの読めない童話・
怪談50連発/奥成達:編
with フランケンシュタインズ」
より紹介しました。