と、言うところで、話はここで終わったんですが、それから2、3ヶ月ほど
して、このドラマに一緒に出演した俳優のNさんと、偶然、MHKで会ったんです。
「あっ、そうそう。あの撮影で大怪我したって聞いた助監督の ”政” くんって
言ったっけ？ よかったねぇ。すっかりよくなったんだねぇ」
って、言うから...、
「えっ！？」
って、聞いてみたら、
「この間、別の撮影現場で彼を、見かけたんだよ」
って、言うんですよね。
Nさん、彼が大怪我をしたということは、聞いていたようですが、
○んでることは、知らないんですね。
で、このときは、誰か別人と、見間違えたんだろうと、さほど気には
してなかったんですが、これには、後日談があるんです...。
もう、4、5年ほど経ちますかねぇ、私に恐怖作品の出演依頼があったん
ですが、撮影が4月の後半頃になるというんで、例年、4月からは、夏のツアーの
準備に入るし、5月末辺りから、7月の本番ぎりぎり前まで、キャンペーンで、
各地を回ってラジオ、テレビのゲスト出演に、雑誌、新聞のインタビュー
記事やらと、慌ただしいスケジュールに追われるんです...。
とても、撮影の時間は取れないので、
「申し訳ありませんが...」
と、お断りしたんですね。
この作品には、私と親しい俳優さんが出演しているんですが、
その撮影が終わると、彼から、
「あんたに、見せたいものがあるから...」
って、連絡をもらったんですよね。
幽霊が、映像に写ってるって言うんで、そりゃもう、好奇心をそそられて、
機会をみて、彼と会ったんです...。
それは、所属するプロダクションのスタッフが、個人的に
撮影風景を撮ったもので、映像を見ていたら、偶然発見した
ということなんですね。
で、パソコンの画面で、見せてもらったんですが、
場所は、静岡県と山梨県とをまたぐ、なだらかな山裾の昼間の
原生林の中で、現場へ移動中の出演者の2人と、スタッフ3人が
登ってくるのを、手前の少し高い位置から俯瞰ぎみに撮った
ものなんですね。
で、5人が近づいて来ると、一番、後ろからくる男性スタッフが、
突然、フワッと、2人に分かれたかと思うと、一方がスーッと、
右手にフレームアウトするんですが、
5人とも、その人物の存在に、全く気づいていない様子で、
2人に分かれた、当の男性スタッフも、普通に歩いてる...。
「何 これ？」
で、見直して見ると、一番うしろの彼の後ろにも、近くにも誰もいないし、
隠れる場所もない。
それが、細い木々の間を登ってくると、突然、脱皮でもしたかのように、
フッと、彼から、もう1人が抜け出て、画面右に消えていくんですが、
その人物は、服装も体格も違う別人なんです...。
「これ、間違いなく幽霊だよ。この若いスタッフと、何か
関係あるのかな？
ねぇ、この人は、何の担当？」
と、聞くと、
「ああ、助監だけど...」
って、言うんですよ。
で、幽霊を、もっとよく見たいんで、部分を拡大してもらった
大写しになった彼が木の間を抜けると、フッと、彼からもう1人が
現れた...。
とたん、あまりの驚きで、躰がのけぞった！ 
何と、幽霊の正体は、あの「政」という助監
だったんです。
で、もしやと思って、この作品の監督を聞いたら、あのミステリーの
監督だったんですよね。
彼は、今も撮影に同行しているんですね。
その後、彼の追善供養が、
行われたと聞きました...。
おわり...
備考：この内容は、
2022-7-21
発行：（株）リイド社
著者：稲川淳二
「真説 稲川淳二のすご～く
怖い話・事故物件」
より紹介しました。