「シャネル&ストラヴィンスキー」
マッツ・ミケルセンが57歳になる。
”イケおじ” なんて、言われているが、
60超えたらイケ...おじぃと、
言われるんじゃないだろうか? いいですよ、
イケてるのに、変わりはないですから...。
「偽りなき者」
【異なるアプローチで、
男性ファンと女性ファンを
惹きつけるマッツ】
筆者が、マッツを意識したのは、
『シャネル&ストラヴィンスキー』
だった。カンヌ国際映画祭で
インタビューをすることになったのだが...、
私の担当は、シャネル役のアナ・
ムグラリス。隣りのテーブルにいるマッツが
気になって仕方なかった覚えがある。
その前にも『しあわせな孤独』、
『アフター・ウェディング』、もちろん
『007/カジノ・ロワイヤル」も
観てはいたのだが、俳優名を覚える
までは、興味は抱かなかった...。
ではなぜ、ストラヴィンスキー役で
”キター!”のか? いやあ、セクスィー
だったんですよね~(笑)。知的で、
脱ぎっぷりがよくって、すでにおじさん
だけど、ダンスと体操で鍛えられた
細マッチョなしなやかさが、うふふ、
色っぽかったんですよ。
そう、マッツは、女性ファンと、
男性ファンとで、見るところが違うのである。
マッツは、ニコラス・ウィンディング・
レフン監督の『プッシャー』で、
演じた麻薬売人役で映画デビュー。
アクション映画のハードな男くさい
男も多数演じ、男性ファンを虜に
している一方で、スサンネ・ビア監督は、
作品では、繊細なところもある誠実な
男を演じ、女性ファンを包み込む...。
故郷デンマークを離れ、ハリウッド
(『007』はイギリスだけど、まぁ
ハリウッド的映画ということで)
に行くと、外国人俳優は、色眼鏡で
観られてしまうために、ヴィランを演じる
ことが多くなる。
「007 / カジノ・ロワイヤル」
しかし、良き
俳優たるもの、素晴らしいヴィラン
演技が出来なくてどうする? かくて
マッツはなんと、「007シリーズ』
(『007/カジノ・ロワイヤル』)
から始まり、「MCU(マーベル・
シネマティック・ユニバース)」
「(ドクター・ストレンジ』)、「魔法
ワールド」(『ファンタスティック・
ビーストとダンブルドアの秘密』)
というヒットシリーズすべてで、
ヴィランを演じ、『スター・ウォーズ」
(『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・
ストーリー』)シリーズにも出演。
このことについて、マッツ本人は、
『プッシャー』のイメージなんだろうね。
バッドガイのオファーが多い。
ルナティックな奴も多いけれど、ま、
役の上のことだからね~。
役の気分を家庭に持ち込まない主義なので、
どんな役だってOK!
グリーンバックで、グリーンスーツを着たり、
クレイジーなコスチュームを着たり、
それもいいじゃないか。役者の醍醐味
だよ。望まれれば何でも演ずるよ、
プロなんだから」と、まったく気にして
いない。で、またこのヴィランが、
クールで良いのだわ...。
【エレガントなヴィラン
ハンニバル・レクター博士が
さらなる人気の着火点に】
その極めつけが、ハンニバル・
レクター博士役だと思う。日本だと、
マッツが出演したヨーロッパ各国の
インディペンデント映画も観られる
ので、彼の俳優としての全貌がつかめ
るけれど、アメリカでは、アメリカ
映画以外の、映画を見る人は、アートハウスに
通うような映画好きに限られる。
外国のアクション映画(字幕
読まなくてもOKだし)には、固定ファンが
いるし、ゲームになっていたりも
するので、『プッシャー』系の
バイオレンス派ヴィラン役者だと思って
いた男性ファンが、アメリカでは
多かったのではないかしらね?
で、そこに
ハンニバル・レクターですわ。
おっ、おっ、おっしゃれ~じゃないの、
こんなにイケてるヴィランって、
何っ? と一挙に人気が、男女問わず
広がったわけですね。
マッツによると、
「前の作品は、見るけれど、コピーは
しない。違うことをやる。僕なら
ではの、レクターを作る。
そもそも、
アンソニー・ホプキンズは、わずかな
時間しかハンニバル・レクターを
演じていないが、僕は、30時間かけて
レクターを演ずるんだからね。どう作り
上げるか、ワクワクしたよ。」とのこと...。
トップブランドのスーツ姿が、びしっと
決まり、最高にエレガントな若き日の
レクター博士に、悪の華を見た
観客たちは、これで一気にマッツの
ファンになってしまったに違いない。
ふっ、ふつ、ふ、遅いよアメリカン...。
【今年のカンヌ映画祭で
俳優志願の若者たちへ
アドバイスを】
さて、2022年のカンヌ
国際映画祭で、マッツはファンとの交流
イベント「ランデブー・ウィズ」
シリーズに登壇。
(ここ数年、カンヌは、映画学校性ではない、一般の
若いファンのために、最初と最後の
3日間ずつを開放するパスを発行
している。マッツのイベントは、
そんな若い観客が参加できるよう設定
されていた)で、満員の会場で、90分超えの
トークを繰り広げた。
リラックスした雰囲気で、”何でも聴いて”
モードのマッツに、俳優志願の若者が、
世界を股にかけるためのアドバイスを
求めた。その答えが、またいい。
「まずは、現場で学べということ。
年の違う、経験の違う人達の中で
学び、吸収すること。そしてWork
Back Home、かな?
僕は、デンマークで映画に出ていた。それを
イギリスで、バーバラ・ブロッコリが
見て「007」にキャスティングした。
今は、世界の人が、手元で世界の映画を
見る時代なんだ。地元で、しっかり
仕事していれば、それをどこかで誰かが、
評価してくれる。
そして、扉が開けば
どこへでも行けばいい。ただ、
間違えちゃいけないのは、”フィルムに
従え。フィルムが、君に従うのでは
ない”ということかな? デンマークを
離れて「007」に出ることになって、
どんな演技をしてやろうか?」と
構えていた僕に、マーティン・キャンベル
監督が言ったんだ。
”ボーイズ、これは
007映画なんだ!”ってね。最高の
アドバイスだったよ」ボーイが
複数形なのは、初ボンド役のダニエル・
クレイグに対してもの言葉だった
のかもしれない。
マッツもクレイグも
演劇学校出身。演技方法の型を学んで
いるし、役の解釈なども大事にする。
が、「俳優たるもの」なんて構えずに、
”フィルムが要求する役”を演じろ、
ということ。変幻自在、どんな役でも
いらっしゃい、だからこそ引く手
あまたな役者マッツは、この言葉で
作られたのだ...。
とはいえ、デンマーク映画での
マッツは、ちょっと違う。気心の知れた
仲間、つまりいろいろやってみたい
役者マッツと、友達マッツの両方を
知る監督と組むことが多く、監督と
互いの信頼の下、キャラクター的に
実験しつつ演ずることが多い。
1本の作品の中で、キャラクターが変化する
ことも多いのだ。例えば『ライダーズ・
オブ・ジャスティス』では、怒りに
任せて○しもできるガチガチの
職業軍人から、変人仲間に溶け込む
クリスマスセーター姿の父に変身して
いく...。
1人の人間が、ある出来事を
経験していく過程で変化する姿を、
さりげないけれど、確実に魅せてくれる
のが、マッツ・ミケルセンなのだ。
歳を取れば、取ったで、変化を味方に魅力が
増していくマッツ。イケおじぃに
なっても、私はついていく...。
備考:この内容は、
令和4-11-21
発行:近代映画社
「screen 2023-1月号」
より紹介しました。