寒い夜のピザ...その1 | Q太郎のブログ

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パクリもあるけど、多岐にわたって、いい情報もあるので、ぜひ読んでね♥
さかのぼっても読んでみてね♥♥

ピザの店 に対する画像結果

 

 

 

 「じゃあ、早速だけど、明日からよろしく頼むね」おじいちゃん音譜

 

 

 店長の ”中井さん” は、そう言って、僕と握手をしてくれた。

 

チェーン展開をしている、この宅配

 

ピザの店をバイト先に選んだ理由は、名前に

 

馴染みがあったことと、大学とアパートの

 

ちょうど真ん中に、あったからという単純なものだったが、

 

まだ知り合いも何もないこの街で、とにかく

 

バイトが決まったことに、僕は少しホットした。ニコニコ

 

 

 

 東京で1人暮らしを始めて1週間、無意識に

 

肩に力が入っていたのだろう。中井さんの

 

優しい笑顔と力強い握手に、ここ数日の緊張が、

 

じんわりとほぐれていくのを感じる...。病院 学校 郵便局 ATM

 

 

 

「お~い、みんな、ちょっと来て!」 

 

 

 中井さんが、

 

奥の調理場に声をかけ、3人のスタッフが

 

顔を出した。僕と同じような男子大学生と、

 

長い髪の女子大生、そしてもう1人は、大柄で色黒の

 

おばさんだった。おじいちゃん キョロキョロ お父さん お母さん ニコニコ

 

 

 

 

 

 

 

ピザ屋のバイト に対する画像結果

 

 

 宅配ピザの店で、働いているというイメージとは、

 

程遠いおばさんは、やたらと声が大きかった。ニコニコ

 

 

 

 にっこり笑って、

 

「あらあ、新入生さん? よろしくね♥」

 

手を差し出してきた。差し出したと

 

思ったらもう、僕の手を力いっぱい

 

握っていた。その手は、熊のように分厚く、表面は驚く

 

ほどガサガサだった。拍手

 

 

 

「佐伯」と名乗ったそのおばさんの

 

固い手の感触と、真っ黒に日焼けした

 

顔は、実家の母と正反対で、僕は少し面食らってしまった...。

 

「わからないことがあったら、何でもこの

 

佐伯さんに聞いてね」 という中井さんの言葉に、

 

僕は慌てて、

 

「はい、よろしくお願いします」

 

と頭を下げた...。ニコニコ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピザ屋の配達 に対する画像結果

 

 

 

 翌日から僕は、佐伯さんに、ぴったりくっついて、

 

1から10まで教えてもらった。電話注文の

 

受け方、ピザの焼き方、トッピング、パッケージの

 

組み立て、配達地域と道順、パソコンへの

 

入力方法、はたまた、暇なときには、周辺アパートへ

 

チラシのポスティングなど・・・覚えることは、

 

山ほどあった。ガーン

 

 

 

 佐伯さんは、この店で働いて、まだ半年にも

 

満たないのだという。それなのに、その仕事のすべてを

 

熟知していた。若い僕でさえ、何だ、

 

こりゃあ?と、思うようなカタカナばかりのメニューや、

 

食材を完全に暗記し、びっくり

 

 

 

「はい、クアトロフォルマッジョと、

 

メランザーネ、パラペーニョですね?」

 

などと、淀みなく復唱してしまう。ピザ ひらめき 音譜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけに

 

「少しピリ辛ですけど、大丈夫ですか?」

 

とお客さんに、その辛さの度合いを確認する配慮を

 

忘れなかった...。 ニコニコ ラブラブ

 

 

 

 

 

 佐伯さんは、東京でも、1、2を争う入り組んだ

 

道の多いこの当たりの地理を、完全に知り尽くし

 

ていて、聞けばすぐに抜け道や一方通行、

 

行き止まりといった情報を教えてくれた。バイクで

 

普段からこの街を、走り回っているという、もう1人の

 

学生バイト・「謙ちゃん」でさえ、配達の

 

たびに、佐伯さんに、最短ルートを確認していた...。自転車 OK

 

 

 

 ほぼ、電話受付しかしていない女子大生の

 

「香奈」ちゃんに至っては、お客さんから聞かれた

 

お得クーポンの有効期限も、お子様セットの内容も

 

自分では確認せず、佐伯さんに全部聞いて、その

 

通り案内するのだ。僕らバイトは、佐伯さんなしでは、

 

まったくの役立たずのように思えた...。自転車 ピザ

 

 

 

 

 

 

 

ピザ店の掃除 に対する画像結果

 

 

 

 僕はラストまでいる時は、必ず残って佐伯さんと、

 

一緒に調理場の掃除をした。乙女のトキメキ キョロキョロ ニコニコ

 

 

 

 

「あらあ、学生さんは勉強があるからいいんだよぉ...」

 

と、佐伯さんは言ってくれたが、はるかに

 

年上の人に掃除を押し付けることが申し訳なくて、

 

僕は黙って手伝った。とは言っても、

 

初めは、掃除の仕方が、さっぱりわからず、これも

 

1から教えてもらった...。バレエ ランニング

 

 

 

 

 「大事に育てられたんだねぇ」 佐伯さんは、

 

そう言って、朗らかに笑った。嫌味ではないと

 

わかっていても、実家では、掃除なんてやったことが

 

なかった僕は、少し恥ずかしくなった。母に、

 

1から10まで、世話を焼かれていたことを、見抜かれた

 

ような気がしたのだ...。歩く 指差し

 

 

 

 

 

 

 

 

田園調布の住宅街 に対する画像結果

 

 

 東京に程近い、小さな町にある僕の実家は、

 

地元では名の知れた家だ。その町が、東京のベッド

 

タウンとなり始めたころ、父はマンションを

 

たくさん建てて売りまくり、祖父から受け継いだ

 

建設会社を飛躍的に大きくした。母は、多忙な父を

 

ひたすら支え、口答え1つせずに仕えて

 

いた...。 おばあちゃん おじいちゃん

 

 

 

「圭一は、僕の自慢の息子だからな。お前なら

 

将来、俺の会社を任せられるだろう」 学校 グラサン

 

 

 

 父は、僕が跡を継ぐためには、まず東京の

 

一流大学へ進学するべきだと考えていた。その

 

意向を受けた母は、僕が勉強に専念できるように

 

褒められることが嬉しくて、ひたすら勉強

 

した...。 

 

 

 

 そう、高校の3年間は、勉強さえしていれば

 

何も言われなかったのだ。学校が終われば塾。

 

塾が終われば、母の作った夜食を食べて、また勉強。

 

期待に応えることだけを考え、そして、

 

悲しいことに努力は必ず報われると信じていた

 

3年間だった...。 笑い泣き汗

 

 

 

 

 

 

 

 

 

備考:この内容は、

2010-5-1

発行:廣済堂

編著:リンダブックス編集部

原案:甲木千絵

小説:谷口雅美

「99のなみだ・光」

より紹介しました。