星新一「禁断の実験」...その3 | Q太郎のブログ

Q太郎のブログ

パクリもあるけど、多岐にわたって、いい情報もあるので、ぜひ読んでね♥
さかのぼっても読んでみてね♥♥

美人秘書 に対する画像結果

 

 

「書類は、ごらんになりましたでしょうか?」

 

 

 

「ああ、持っていってくれ」

 

 

 

「はい。それから、定期的な装置の点検に、お立ち会いになる時刻でございます」

 

と、秘書は壁の時計を指差してうながした。

 

 

 

「ああ、そうだったかな?」

 

 

 

 博士は立ち上がり、部屋を出て、その仕事に向かった。タイムマシンを格納して

 

ある部屋を係員とともに巡回する。マシンは何種類もある。何人も乗れる観光用の

 

大型のタイプから、歴史研究用の小型のものまで揃っている。博士は順次に片付けていった。

 

 

 

 自分で作った装置だから、手慣れた仕事だ。それに係員たちが絶えず調べていて、

 

少しでもおかしいと、慎重を機して、すぐ新品と交換してもいる。博士にとっては

 

頭を使わなくてもいい仕事だ。

 

 

 

 

 

 

 

ドラマタイムレス に対する画像結果

 

 

「SFドラマ・タイムレス」

 

 

 

 形式的に立ち会いながら、頭はべつなことを考えることが出来た。つまり、過去の自分を

 

○したら、どうなるのか? あまり度々考えたせいか、今日は特に、その衝動が

 

強かった。心の内部で、そそのかす声がする。「やってみたらどうなのだ!?」

 

 

 

 やってみるとするかな? 最後に小型マシンの点検を済ませた時、エヌ博士は自分でも

 

そう思った。そして、思った途端、たちまち実行を決心していた。これは賭事を

 

やっているせいかもしれない。賭事をしていなかったら、一応、ゆっくり検討

 

しなおしてから、思いとどまったかもしれない。

 

 

 

 決心と同時に、ドアを内側から閉めていた。外でザワザワと声がする。係員たちが

 

驚きあわてているのだろう。だが、博士は答えなかった。

 

 

 

 ボタンを押し、ダイヤルを回した。構造が、どうなっているのかは知らなくても、

 

操作法は知っていた。マシンは動き始め、博士は、次に暗示装置の作用を停止させた。

 

普通の人には絶対に手に負えないものだが、そこは発明者。覆いをはずす鍵も持って

 

いるし、どの回路を、どうすれば作用を失うかも知っている。すべては、手際よく

 

行われ、これで、強力な心理的な支配から開放された。

 

 

 

 

 

 

 

映画スターゲート に対する画像結果

 

「SFドラマ・スターゲイト」

 

 

 

 あとは、実行にかかるばかり。博士は装置の中から拳銃を取り出した。ありえない

 

ことだが、装置に故障がおこり、乗客が反乱をおこして、過去の変更を要求するという

 

非常事態に備えて、高性能の拳銃が隠されてあるのだ。この場合、操縦者は、

 

皆を射○することになっている。

 

 

 

 エヌ博士は、どの時点に行こうかと考え、記憶をたどった。そして、かつてタイム・

 

マシンで、自己の青年時代を観察したことを思い出した。青年時代のエヌ博士は、よく

 

夜の野原を1人で散歩した。前回は、それを物陰から眺めるだけで引き上げて

 

しまった。今も、そのころの、その場面の、その場所に行けばいいだろう。だが、今回は、観察だけ

 

では満足しない。拳銃を発射してみるのだ。

 

 

 

 博士は、マシンを止めた。外へ出ると、暗い夜だった。青年時代の思い出が

 

蘇り、散歩の道順まで鮮やかに頭に浮かんできた。彼は待ち構え、ついに、

 

その時がきた。

 

 

 

 

 

 

 

映画タイムトンネル に対する画像結果

 

 

「SFドラマ・タイムトンネル」

 

 

 

 

 間違いなく、過去の自分だ。独特の歩き方を見てもわかる。エヌ博士はそっと、

 

狙いをつけた。妙な気分になった。どんな結果が発生するのだろう? 自分の過去には

 

射○された経験はない。とすると、引き金が引けないのだろうか?

 

 

 

 この想像は、不愉快だった。なぜなら、過去が変えられないとすれば、自分が苦心

 

して完成させた装置の意味がないことになるではないか。耐えられぬことだ。それとも、

 

別な次元の世界に戻ることになるのだろうか? だが、それはどんな世界なのだ・・・?

 

 

 

 またも袋小路に迷い込むのを、博士は決心の確認で追い払った。好奇心と解答への

 

欲求が高まってきた。対象が他人でないため、良心の痛みはまったくなかった。

 

 

 

 博士は、ためらうことなくい引き金を引いていた。もちろん銃は火を噴いた。高性能の

 

弾丸のため、1発で充分なのだが、彼は、念を入れて、ありったけの弾丸を発射しつくした。

 

相手は倒れ、○は確かめるまでもない。また、そばへ寄って自分の○を調べるのも、

 

ちょっと、気が進まなかった・・・。

 

 

 

 

 

 

bttf ドク に対する画像結果

 

 

 

 

 

 

備考:この内容は、

平成7-9-1

発行:(株)新潮社

著者:星新一

「天国からの道・禁断の実験」

より紹介しました。