変身するときのジャンプで得られるエネルギーは、どのくらいだろうか?
仮面ライダーのジャンプ力は、25mという設定だ。25mの高さまで跳び上がっ
て着地するまでの間には、ベルトの風車には29Jのエネルギーが流れ込む。
ところが、エネルギー変換率を59.3%としても、使えるエネルギーは、その
うちの17J。これでは、2kgの荷物を90cm持ち上げるのがやっとだ。牛乳パック
2本を腰の高さまで持ち上げた瞬間、すべてのエネルギーを使い果たし、仮面
ライダーは、バッタリと倒れるのである。これなら、変身前のほうがよっぽど強い。
しかもこれは、風圧を最も効率よく受けられた場合の話だ。TVのように直立
してジャンプしたのでは、風車はほとんど回転しない。
効率的に風を受けるジャンプとは、仰向けになって上昇し、最高到達点で
ヒラリと180度回転し、うつ伏せで落ちてくる運動である。力学的に非常に難しい。
AHO~!
実行するには、ジャンプする瞬間、エビぞらなければならないが、そんなことを
すると、地面で頭を打つだろう・・・。初めから仰向けになって、腰のバネで跳び上がる
しかない。これができる人間がいたら、相当な筋力の持ち主だろう。
変身しなくても充分強い。
同じ方法で、ビルから突き落とされた
ときの、エネルギーを計算してみよう。
仮に、ショッカーの手によって、地上296mの
横浜・ランドマークタワーの屋上
から、突き落とされたとすると、風圧に
よって獲得するエネルギーは、2400J
である。これによって、800Wの電気
ストーブを3秒間つけることができる。
あまりにも悲しい。ビルから突き落とされ
ながら、それを逆用して変身する・・・
といった命がけの荒業を敢行して、
やっと、ほのかな温かみを感じる程度の
エネルギーが、手に入るだけなのだ。
反撃するには、タワーの屋上にいる
敵のところまで行かなければならないが、
このエネルギーでは、階段を3m上がるのが
精一杯だ。まだ、293mも残っている。エレベーターで上がっていく
いう手もあるが、このエネルギーでは、闘っても勝てるはずがない。わざわざ
突き落とされに行くようなものだ。気が済むまで、永遠に往復するがよい。
このどうしようもなく微力なエネルギーでも、バイクに乗れば結構マシになる。
時速500kmの、新サイクロン号で走れば、発電出力は7500W。これなら23分
19秒走り続ければ、2500キロカロリーという、常人が、ごく普通の日常生活を
送るのに必要なエネルギーが得られる。
しかし、これで何が嬉しいのだろうか? 日常生活を送るためのエネルギーなら、
改造さえしなければ、3度の食事で済んでいたのである。仮面ライダーが
ショッカーを恨むのも無理はない。
しかも、時速500kmで公道を走ったとすると、狙われやすい上に、一発で
免許取り消しを食らってしまう。どこかの山奥に秘密の エネルギー補給用サーキットを
建設し、こんな因果な体に改造されたことを嘆きながら、毎日通わなければ
ならない。
仮面ライダーは、本当に悲劇のヒーローなのである・・・。
備考:この内容は、
2018-11-30
発行:(株)KADOKAWA
著者:柳田理科雄
「空想科学読本 1」
より紹介しました。