「JET STRAEM」作家の旅
今週は、松浦弥太郎の
「居心地のよい旅」を、
一部、編集してお贈りします・・・。
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台北は、思わず歩きたく
なるような陽気だった。
「古亭」(こてい)という街の、だだっ広い交差点で、
信号待ちしていると、
長い髪を後ろで1つに、
まとめている美人が、中国語で、
話しかけてきた。
「中国語は、わからない・・・」
と、カタコトの英語で
返事をすると、
ほほ笑みを浮かべて、
自分の手首を指差した・・・。
「そうか、時間を聞いていたのか・・・?」
腕時計を持たない僕は、
ポケットから、携帯電話を取り出して、
画面を見せた。
画面を覗き込んだ美人は、
表示された時間を見て、
ぼそりと、つぶやいて、
ゆっくりとした口調で、
「謝謝」(シェイシェイ)と言った。
そして、
「その携帯電話、ステキね!」
と、流暢な英語で言い、
歩いて行った・・・。
話しかけられてから、
去るまでの間、
その女性と、僕との、
あまりにも距離の近さに、
ドキドキしてしまった・・・。
傍(はた)から見れば、恋人同士と、
見まがう近さだったはずだ。
街中で、何かを尋ねる時、
人は、これほど近づく
ものだろうか・・・?
その女性の、なんとも言えぬ、
仕草の余韻が、心に残り、
見知らぬ街で、温かい
気持ちが生まれた・・・。
ゆっくりと口にしてみると、
「謝謝」と言う言葉は、
とても美しい響きだ。
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一度、赤になった信号は、
また、青になり、
黄色いタクシーや、群れをなした
スクーターが、真っ白な排気ガスを、
吐き出しながら、
途切れることなく、目の前を
通り過ぎていく・・・。
台湾を旅するのは、初めてだ。
初めての旅先で、見たいものは、
知りたいことを「律儀」に、
果たそうとしたら、
切りが無い。
着いた場所から歩き始めて、
落ち着くところで、腰を降ろし、
その途中で見つけた「何か」を、
小石のように、ポケットに
拾い集めて、持ち帰れば
いいと思った。
これほど、気を楽にした旅は、
久しぶりかもしれない・・・。
忘れかけた、旅の仕方を、
思い出すのは・・・。
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宿を取った「古亭」は、学生街だ。
何があるか、わからないが、
1つ、この街を歩き回って、
地図を書いてみよう・・・。
そう思って歩き始めた途端、
大きなアクビが出た。
夕暮れには、まだもう少し・・・。
することもないから、
古亭の小径を、散策してみた。
小径に入ると、集合住宅が、
所狭しと、建ち並んでいた。
それを、見上げて歩きながら、
不思議に感じたんだ・・・。
どの窓にも豪華で、
頑丈な鉄柵が、
付けられている・・・。
鉄柵だらけの住宅は、
まるで、「牢獄」のようだ。
その理由を、土地の人に聞くと、
「泥棒除けだ」と、
笑って教えてくれた。
しかし、今の台北が、
それほど治安が悪いとは、
思わない。
きっと、
昔ながらの習慣なのか・・・?
台湾の人にしてみれば、
鉄柵のない窓は、
窓ではないという
感覚なのかもしれない・・・。
しかし、窓の外に手を伸ばせない
窮屈な感じは、
いかがなものか?
地震や火事の時、
ひょいと、窓から逃げられない
ではないか!?
と心配になる・・・。
備考:この内容は、
福山雅治編
「JET STREAM」
2022-8-22 放送分
より紹介しました。