【第3の声の正体は・・・?】
来週の期末試験のために、ノートを借りなくちゃ・・・。
朝美は、裕子の電話番号を
押していた。
プルルル、プルルル・・・。
呼び出し音の調子が変だ、と思った。
妙にカン高くて、音量が大きいのだ。
裕子ったら、デートにでもでかけたのか?
朝美が、電話を切ろうとしたとき、受話器から
”もしもし”という男の声がした。
「もしもし、あの、沢田裕子さんのお宅ですか?」
裕子は、1人暮らしなはずだ。朝美は、ちょっと動揺していた。
「いえ、違います。」
「すいません。間違えました」
やだ、私ったら、そそっかしい。3 4 2 1 の・・・。
朝美は、ひとつひとつ番号を確認しながら、
もう一度電話をかけ直した。
プルルル、プルルル・・・。
「もしもし?」
「あれ? 沢田さんの?」
「違います。ヤナギモトですけど・・・?」
さっきの声だ。
「そうですか。すいません」
変なの。ちゃんと番号を押したのに。
混線しちゃっているのかな?
朝美は、さっきよりも、もっと慎重に番号を押してみた。
プルルル、プルルル・・・。
どうしちゃったのかしら?
この呼び出し音、電話がこわれちゃったのかな?
「もしもし、”ヤナギモト” です」
「え~! やだ、また?
すみません。なんか、電話がおかしいみたい」
「いや、僕は構いませんけど」
「失礼ですけど、そちらの番号は何番ですか?」
「いや、僕は、”ヤナギモトジュンペイ”です」
「すみません。失礼しました」
へんな男だったら怖い。ボーイフレンドの ”政人” に話そう。
「これだったら、間違えないもんね」
プルルル、プルルル・・・。
「もしもし、あたしよ。政人、元気?」
「僕は、ヤナギモトです」
朝美は、無言で電話を切った。
なんで、こんなになっちゃうの? 電話が壊れたのか?
電話回線がおかしいのか?
明日、真っ先に電話局に行ってやる。
「87番の方、4番窓口へ・・・」
引っ越しシーズンで、電話局は混雑している。
朝美は、きのう取り外した電話機を抱え、
呼ばれた窓口に座った。
「なんか、変なんです。
これで電話をかけたら、全部、同じところにかかっちゃうの。
気持ち悪いから、調べてほしいんです」
「そうですか。それは変ですね。電話機と回線と、両方調べて見ますから。
まず、ここに、お名前と住所を記入してください」
差し出された書類に、朝美が記入し終えると、担当者と向き合った。
新米のような男の目が、一瞬、ニヤッと笑ったようだった。
(なによ! 私のいうこと信じてないのね。
ぜったい、電話がおかしんだから・・・)
帰りの電車の中で、朝美は、検査日の確認しようと書類を取り出した。
その目は、”受付人”の欄で止まった。
『柳本順平』という署名が残されていた・・・。
備考:この内容は、
1995-8-5
発行:KKベストセラーズ
著者:フランケンシュタインズ
滝口千恵
「怪談50連発!
・・・危険なユーモア
子どもの読めない童話」
より紹介しました。