泣けるシリーズ「君の卒業式」...その2 | Q太郎のブログ

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小学生カット – 三軒茶屋のお洒落な美容院|BLIK hair&make ブリキヘアー&メイク

 

 

 

 香澄との無言の、おしゃべりを終えた真紀と連れ立って、外階段を降りる。自宅の1階が美容院の

 

店舗になっていた。オーナー兼美容師の弘美が、1人で、切り盛りする住宅街の小さな美容院だ。

 

 

 

 2年前から、ドアにかかりっぱなしの『本日休業』の札をはじいてドアを開くと、ひんやり

 

した空気が漏れてくる。タイル張りの床の上で、カバーをかけられたパーマの機械やワゴン

 

テーブルやシャンプー台が、ひっそり並んでいた。いつもながら、物寂しい眺めだ。

 

 

 

 

 

 香澄が亡くなって1ケ月ほどは、クラスメイトが、たくさん家を訪れ、香澄の思い出話をして

 

くれた。それが、3ケ月経ち、半年経ち、1年経つうちに、訪問者の数は、どんどん減っていき、

 

今も変わらず、1ケ月に1度、手を合わせに来てくれるのは、真紀だけだ。

 

 

 

 

 

 そしていつの頃からか、真紀は、手を合わせた後、美容室で髪を切っていくようになった。

 

言い出したのは、弘美のほうだ。いつも、来てくれてありがとう、と、お代はサービスした。こう

 

して、香澄の○後、ずっと店を閉めたままの弘美にとって、真紀は唯一の客となった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドライヤーのスイッチを入れて、動作確認をしてから弘美は鏡越しに、真紀に笑いかける。

 

「さて、今日も、おばちゃんに『おまかせ』で、いいのかな?」

 

 

 

 尋ねながら、肩下まで伸びた真紀の黒髪を、両手ですいた。さらさらと、指どおりのいい髪だ。

 

真紀と香澄は、性格も顔立ちも、まるで違っていたが、髪質だけはそっくりだ。

 

 

 

「大きくなったら、お姫様になる!」が、口癖だった香澄は、幼い頃から、ロングヘアーが

 

トレードマークだった。毎朝・・・事故に遭った日の朝も・・・、

 

 

香澄は身支度を済ませると、洗面所ではなく、わざわざ美容院の鏡の前で、

 

 

 

弘美に髪を結ってもらった。娘のまっすぐで、艶やかな髪をいつくしみ、

 

かわいく凝った髪型を、いくつも考案したものだ。

 

 

 

 

 

 香澄の髪型は、学校や、近所で評判がよく、

 

何より本人が宣伝上手だったため、

 

「真似したい」という女の子たちが、美容院に大挙して押し寄せ、

 

弘美は嬉しい悲鳴を上げた。

 

 

 

「おばちゃん」と、真紀に呼び止められ、弘美は、思い出の中から戻ってくる。

 

 

 

「おばちゃん、あのね、あたし・・・」

 

 

 

「どうしたの?」と、真紀の顔を見つめる弘美の視線は・・・、

 

 

 

しかし、すぐ横に置かれたワゴンテーブルへと移った。

 

 

 

「そうそう」と、手を打ちながら、水色のリボンを取り出す。

 

 

 

 

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「この前、駅ビルで見つけたんだ。真紀ちゃんに、この色どうかな~って」

 

 

 

弘美は、真紀の意見も聞かずに、リボンを髪の横にたらしてみた。

 

 

「うん、いいね。かわいいよ。待ってて。今、リボンの似合う髪型にしてあげる!」

 

 

 

「・・・ありがとう」

 

 

 

真紀の言葉の最後に、うっすらと、ため息がまじっていたのを、弘美は気づけなかった。

 

 

 

真紀の、きれいな髪を、ていねいにカットしながら、おしゃべりするのは、弘美にとって

 

楽しさを感じられる唯一の時間だった。

 

 

 

「今日は、どんな買い物をしてきたの?」

 

 

「え~と、中学用に、新しいペンケースとシャープペン。それから下敷きも。

 

 

あとで見せたげるね。

 

 

かわいいんだよ!」

 

 

 

 中学、という未来を、さらりと語れる真紀を、弘美は、うらやましく見やる。

 

 

 

「中学入ったら、また、お友達が増えるんだろうねぇ?」

 

 

「どうかな? 入学式は、美穂たちと、行こうと思っているんだけど、あんまり小学校のときの

 

クラスで固まるのも、よくないよね、きっと」

 

 

 

 真紀の口から、香澄以外の友達の名前が出てくると、弘美は、少し切なくなる。

 

 

 

 

 

「入学式といえば」と話を奪い取り、未来から過去へとベクトルを変えてしまった。

 

 

 

「香澄と、真紀ちゃん、小学校のワンピースが、かぶっちゃったのよね。その2人が

 

同じクラスになってるものだから、真紀ちゃんのお母さんとおばあちゃんは、

 

もう気まづくって・・・」

 

 

 

「でも、あたしは、香澄と仲良くなれたのは、入学式のワンピースが、かぶったおかげだよ」

 

 

 

 入学式のワンピースが、一緒だっちゃことは、この2年間で、少なくとも、すでに5回以上

 

2人の話題に登っている。それでも、真紀は、「またか」というような顔は、いっさい見せずに、

 

弘美に付き合ってくれた。

 

 

 

「でも、入学式の次の日から、真紀ちゃんは、パンツルックばっかりだって、香澄が、残念がって

 

たわ。フフ。あの子、真紀ちゃんと、おそろいの服をもっと、着たかったみたいよ」

 

 

 

「無理無理。あたしは、ズボンしか、はかないし、香澄は、スカートしか持ってなかったもん」

 

 

 

「そうだったわねぇ。香澄は、ズボンのほうがいい場所にだって、意地でもスカートで遊びに

 

行ったもんね。ほら1度、公園の鉄棒で、スカートがめくれるのを気にしていたら、頭から落ちちゃって

 

・・・真紀ちゃんが、おんぶして、病院まで、連れてってくれたでしょ?」

 

 

 

「あったよぉ。『香澄だいじょうぶかなぁ? 大丈夫かなぁ?』って泣いてくれて・・・。

 

本人は、ケロリとしてたのにね。真紀ちゃん、やさしいから」

 

 

「ぜんぜん、覚えてないや」と、気まずそうに首をすくめ、

 

真紀は、ケープについた髪を払った。

 

 

 

 

 

「どう?」と弘美が手鏡をさしだすと、真紀は念入りに、新しい髪型をチェックした。

 

 

「かわいい。でも、あたし・・・」真紀は、口ごもる。

 

 

「ん?」と、小首をかしげた弘美を見つめ、真紀は姿勢を正した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「天満先生から、連絡がありました?・・・明日の、卒業式のこと」

 

 

 

天満先生は、小学校4年のときの、香澄と真紀の担任だ。

 

あのときのクラスと担任が、そのまま6年まで、持ち上がっていた。

 

弘美の顔色が変わったのを、真紀は、返事と受け取ったようだ。

 

 

 

「来てくれますよね?」と、心配そうに、確かめてくる。

 

 

 

「それは・・・ほら・・・」

 

 

 

「来てください。あたしたち、香澄と一緒に卒業・・・」

 

 

 

「香澄は、○んだのよ!」

 

 

 

弘美は、たかぶった声で、真紀の言葉をさえぎってしまう。

 

おとなげないと知りつつ、止められ

 

なかった・・・。

 

 

 

「真紀ちゃんが、10歳から、過ごした2年間を、あの子は持っていないの。

 

10歳のまま、永遠にあの

 

日に置き去りのままなのよ。卒業なんか出来ないわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 長い時間があった。真紀の肩が震える、細い毛の散らばったケープに、

 

透明な雫(しずく)

 

が落ちた。

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」と真紀は、小さな声で謝った。

 

 

 

「ごめんなさい。おばちゃん。香澄を○なせてしまって、ごめんなさい。

 

あたしが、あの時、

 

もうちょっと、早く振り返っていたら・・・」

 

 

 

ごめんなさい、と何度も謝り続ける真紀を、弘美は、呆然と見下ろす。

 

 

 

この子は、そんなふうに、

 

思っていたのか・・・。言葉を失った。

 

 

 

 

 

 香澄の事故のショックで、一時は声を失ったものの、医師や両親、友達や先生のあたたかい

 

フォローによって、真紀は、みるみる元の活発な女の子に戻っていった。

 

 

 

香澄の写真に手を合わせ、弘美に髪を切ってもらい、

 

 

 

学校であったことや、香澄以外の友達について、屈託なく話してくれる

 

ようになった。健全な子供が、みんなそうであるように、真紀もまた、

 

未来だけを見つめて歩いていた。

 

 

 

香澄の○は、とっくに真紀の中で『消化』されたものだと

 

ばかり弘美は思っていた。

 

 

 

「真紀ちゃん・・・あなたずっと・・・?

 

 

 

ずっと、そんな苦しい気持ちを背負ってきたの?

 

おばちゃんに、申し訳ない、香澄に申し訳

 

ない、って思いながら、毎月、顔を見せてくれていたの?」

 

 

 

 真紀はうつむいて泣きつづける。いつも髪型を弘美に任せ、香澄が喜ぶような、香澄が

 

似合うような髪型ばかり、つくられても、文句ひとつ言わず

 

「かわいい」と喜んでくれた。

 

 

 

あれは、

 

真紀なりの『罪滅ぼし』だったのかもしれない。弘美は、頭をさげた。

 

 

 

「おばちゃんこそ、ごめんね。真紀ちゃんの気持ちに、気づいてあげられなくて、ごめん」

 

 

 

 そして、来た時と、ほとんど長さの変わっていない、真紀の髪をさらりと撫でる。

 

 

 

 

「真紀ちゃん、髪型のリクエストってある?」

 

 

 

 

 

 

 

 

真紀は、ぱっと顔をあげると、まだ、涙に濡れたままの頬を紅潮させてうなずいた。

 

 

 

「あたし、中学に行ったら、バスケ部に入りたいの。だから・・・短くしたい!」

 

 

 

「オッケー! まかせて。バッサリいこう!」

 

 

 

30分後、鏡の中には、ベリーショートの女の子が居た。

 

 

 

「いいね。似合ってる。真紀ちゃんは、顔ちっさいし、

 

スタイルもいいから、モデルさんみたいよ」

 

 

 

「ホント?」と、真紀は、うれしそうに、何度も鏡を覗き込んだ。

 

 

 

「ホント、ホント」と頷きながら、弘美は、ケープを取り払い、

 

ネルシャツの襟を直してやる。

 

 

 

 

 

 

 

真紀は、上目遣いに弘美を見て、ちいさい声で聞いた。

 

 

 

「明日の卒業式・・・来てくれますか?」

 

 

 

弘美はうなづく。

 

 

 

それが、真紀に対して、今の弘美が示せる、

 

 

 

一番よい形の誠意だと思った・・・。

 

 

 

 

 

備考:この内容は、

2011-1-9

発行:(株)リンダパブリッシャーズ

編者:リンダブックス編集部

「99のなみだ・空

涙がこころを癒す短編小説集」

より紹介しました・・・。