【気がつけば、街でちょっと顔の利くオヤジになっていた・・・】
「あの、おじさん、知ってる!」
「学校の前のローソンの、おじさんじゃん」
駅のホームで、若い女の子たちの、ひそひそ話が聞こえてくる。
地元の中学校近くで、私の店、ローソンがオープンしたのは、3年前の春。
まだ、幼さが残るピカピカの制服姿。新入生たちと同じ、私にとっても、新しいスタートだった・・・。
「早期退職者募集」。
念願かなって、郊外に建てたマイホームだったが、毎日の通勤は、往復3時間弱。
毎朝、家を出ると、帰宅は、たいてい深夜だ。
中間管理職に、ありがちなストレスで、精神的にも、限界を感じていた頃。
私に、迷いはなかった・・・。
学校の前の店は、賑やかだ。
「また、抜け出してきたな?」
「授業も、つまんないしさぁ」
3時間目のチャイムが鳴ると、昼食を待ちきれずに、学校を抜け出してくる。
「太るかな~?」
気にしながらも、デザートコーナーの前を、陣取る女の子たち。
「今日は、勝ったのか?」
「聞かないでよ!」
弱小野球部は、また、今日も負けたらしい・・・。
バレンタインには、クルーにチョコを、持ってくる女の子もいる。
私も、そのおこぼれに預かって、何度か義理チョコを頂いたっけ。
丸の内の、オフィスにいた頃には、全く、目にすることのなかった日中の光景。
「ウチの娘や息子もも、こんな風だったのかな?」
もうすぐ、4度目の春を迎える・・・。
あの頃、ピカピカの新入生だった彼らとも、もうすぐお別れだ。
「おやじさん、元気で、頑張れよ。もう年なんだから」
「何、言ってんだ!お前に心配されるような年じゃないよ!」
「また、寄ってやるからさ。」
「おう!待ってるよ。今度来る時は、その金髪なんとかしろよ!」
「わかってないなぁ。全く相変わらず、うるさいオヤジだなぁ、もう・・・」
彼らは、笑顔で去っていった。
学校では、ちょっと突っ張っている奴らも、ホントは、素直ないい子供だ。
桜が咲く頃には、奴らは、別の場所に旅立っていく。
そしてまた、新しい顔が、やってくる・・・。
住んでいるまち、そして、そこに集まる人たち。
そんなまちの中で、生活している。
長い間、知らなかった風景が、ここにはある・・・。
備考:この内容は、2002-5-1
発行・発売:(株)リクルート
「アントレ MAY 2002.5月号」
より紹介しました・・・。