映画「世界の、中心で愛を叫ぶ」では、カセットテープが、大事な役割を演じている。
小さな町に住む、高校生のアキとサクは、交換日記のように、テープで、お互いの声をやりとりし始める。
じかに、話すよりも、正直に気持ちが言えるからと・・・。
『自己紹介してみようと思います。好きなものは、調理実習、夏の麦茶、白いワンピース・・・」
とアキ。サクは「プールの授業、冬のクワガタムシ・・・」。舞台は、1980年代。同じように
カセットを手紙代わりに、使った方もいるのではないか・・・?
好きな人への告白。家族への誕生日メッセージ。当方も、海外留学中の友人に、とりとめのない
話を吹き込んで、送った事がある。声でも、音楽でも、手作りの感じがしたのは、録音ボタンを
ぎゅっと押す感触のせいか・・・?
そんなふうに、思いを巡らせたのは、ある訃報に触れたからだ。60年代にカセットテープを開発
したオランダの技術者が○くなった。フィリップス社で、製品開発部長だったルー・オッテンス
さん・94歳。
それまでの、テープは、扱いにくく高価だった。米公共ラジオによると、オッテンスさんは、
ポケットに収まる薄い木片をもとに、あるべき未来のテープを考えたという。簡単に持ち運べるメディ
ア。その着想は、遠くスマホにも、つながっているのかもしれない・・・。
インターネットで、たくさんの音楽が聴ける今も、全盛期の遺物にはなっていない。
カセットで新譜を出す動きが国内外にあるという。確かな手触りを求める気持ちは、
わかる気がする・・・。
(3月6日○去・94歳)
備考:この内容は、2021-9-30
発行:朝日新聞出版
著者:朝日新聞論説委員室
「天声人語・2021年3月13日編」
より引用しました。