記者は、創刊号を編集しながら、その時の社会
情勢は、その時の用語の中に集約
されることを、今更のように痛感した。
仮に、本号が戦時中に出たと
すれば、「八鉱一字」「仏滅奉公」式の活字
が横行しただろう。その代表語は例の
「報国」である。「産業報国」「言語
報国」から始まって、何事にもしっぽに
「報国」をつけねば、通用できなか
った記憶は未だに生々しい。
これら一連の戦時中用語は、原子爆弾の一発で
広島長崎の住民とともに一瞬にして、
○語廃語の列に吹き飛ばされた。
「報国」に匹敵する今日の代表語は、
民主化の党服を着なければ、配給も
もらえない状況である。この言語魔術の
ニューフェイス「民主化」をトップに
終戦後の新語造語隠語外来語の続出
は、激動する社会情勢の姿をそのまま
反映して、実に凄まじい。
しばらく反乱する
現代用語をどう整理し、どう定着づけるかは、
今後の重要な課題になって来よう・・・。
アメリカには衆知のごとく、H・L・メンケンの
○大な「アメリカン・ランゲージ」の定本があって、
次から次へと産出される、おびただしい造語スラングの
類を臨時追加版に収録し解説している。
アメリカは伝統の重いきづなを負う
ことなしに、常に新しいフロンティア
を求めてやまない国であり、したがって、
新発明新機械新学説とともに、スピー
ディな新語が大量に生産され、これ
を胃の腑の強いアメリカ文化の中
にあたかも拒否することなく、吸収し
ていく。そこにメンケンの辞典の
意義があり、用語の窓から見た新大陸
の若さが現れている・・・。
ところが、老いたヨーロッパ諸国では、
事態はむしろ逆である。例えばフランス
の”ラルース”を見よう。
”ラルース”は、
ほとんど国定的に近い権威がある
辞典であるが、ある1つの用語を、この辞典に
のせるか載せないかは、アカデミー・
フランセーズの○学権威が、
毎月あつまって、『純粋なフランス語』
の保存という見地から詳細に検討する。
アカデミーの気むづかしい学者
連中の同意を得ることなしには、
いかなる言葉もラルースの中に入る
ことはできない。ラルースに入っていない
とフランス語と言われない。例えば、
「O・K」などと、アメリカ渡来の俗語
は、このアカデミーの関門で拒否された・・・。
これが、ソ連に行くと、事態はまた
特殊のようである。この連邦は、すく
なくとも150の民族で成り立って
いるから、”純粋な国語”をまもる
という、運動は行われない。その代わりに、
共産主義なら共産主義という、ある
1つの用語に対する統一した定義づけ
ということに、懸命な努力が払われ
ている。
党出版局や政治経済研究所
などから年報・哲学辞典・政治
辞典等が続々出版され、各民族語に
翻訳され、ひろく普及しているのは、
その一例である。
メンケン型、ラルース型、
ソ連型と、それぞれ傾向を異にして
いるが、いずれも用語について真剣な考慮
に引き換え、いかに今日の日本の
用語の世界が無政府の荒野に放置
されていることか。
本誌本号のこの試み
は、及ばずながら、戦後日本の各界の
常用語を収録し、1つの社会常識の
水準を示そうとする開墾の一○である。
もちろん、初めての試みでページ数も
限られ、多くの不満不備があるが、今後、
毎年改定増補して、ぜひ国民的な
実用価値を、持つものにしたいと思う。
読者諸君もどうか、お気づきの点、
希望の点を、指摘し教示していただきたい。
各方面の協力によってメンケンの
向こうを張る「自由国民」版の現代
用語年鑑をつくるのが、われわれの
目標である・・・。
昭和23年10月
(自由国民・編集部)
備考:この内容は、2001年
「現代用語の基礎知識」
より引用しました。
(感想)
う~む、これは、昭和23年の言葉なので、
ちょっと、わたくしは、コメントを控えさせて、いただきます。
(関連)
辞書と百科事典の違い
『広辞苑』第7版 岩波書店より
p.1279「辞書」「①ことばや漢字を集め、一定の順序に並べ、その読み方・意味・語源・用例などを解説した書。辞彙。」
p.2490「百科事典」「学術・技芸・社会・家庭その他あらゆる科目にわたる知識を集め、
これを部門別あるいは五十音順などに配列し、解説を記した書物。」
よって、普段なじみのない難しい言葉、日常的でない用語、読めない字などは辞書により調べる。
事柄、時間、出来事などを調べたいときは百科事典を用いる。
「辞書」の例
・『広辞苑』岩波書店
・『朝日キーワード』朝日新聞社
・『江戸語辞典』東京堂出版
・『大きな活字の三省堂国語辞典』三省堂
・『漢字使い分け辞典』旺文社 など
「百科事典」の例
・『総合百科事典ポプラディア』ポプラ社
・『世界大百科事典』平凡社
・『日本大百科全書』小学館
・『現代用語の基礎知識』自由国民社
また、兵庫県立図書館より以下の資料をご教示いただいた。
『百科事典の整理学』竹内書店 こどもの百科事典の選び方、調べ方、こどもに辞典を練習させるといった内容について触れられている。
『事典の小百科』大修館書店 さまざまな種類の事典が紹介されている。事典の案内書として利用できる。