【2台の100RS】
鈴木さんのプレスライダー業は、かれこれ
20年近く続いた。とにかく、ハードな日々
だったと振り返る。しかし、ハードだったわりに
は、無事に勤め上げられたのは、慎重な運転を
信条としていたからだとも言う。
「毎日、よく走ったもんだと、我ながら感心した
ね。最高に走ったのは3ケ月で1万kmという
ペースで、それが10年間も続いた。あとは
それでも、年間、最低3万kmは走っていたから、バイク
は、常時2台以上はないと、仕事にならな
かった。修理中も休めなかったから・・・」
NSUを、一時3台持ったのも、そのためだった
という。1台は、スペアにして、もう1台は
サイドカーにして遊び用としていた。
鈴木さんは、一時サイドカーに凝った時期が
ある。前記のR50やR69Sに乗っていた頃だ。
とにかく、仕事から趣味までバイク、バイク、
バイクの、日々を送っていた・・・。
さて、そろそろ、今回の主役であるBMWR100
RSの話をしなければならない。
購入したのは'83(昭和58)年。
当時、BMWがフラットツインの生産を
止めるのではないか?という情報が飛び交ったこと
がある。鈴木さんも、
最後になるかもしれない
と思い、この100RSを
迷うことなく買った。
しかも、この時、同じ100RS
を、もう1台、合わせて
2台の新車をいっぺん
に購入しているので
ある。2台購入したのに
は、理由があった。
年齢が40代に入った
ていた鈴木さんとして
は、残るバイク人生を
20年と踏んでいた。60歳
までということだ。で、
1台のバイクを新車
からなら、10年は乗れる
だろうから、20年乗るためには、
2台が必要に
なるという、いたって
単純な答えからだった。
結局、20年近く乗り
続けているのは、そのうちの
1台だけ。気になる
あとの1台は、いまだに
新車のまま、保管されているそうな・・。
バイクに乗るのを60歳までと思っていたよ
うだが、それも今のところ、まだまだ降りそうな
気配は感じられない・・・。
とにかく、バイクに限らず鈴木さんは、常に
10年先を見据えて
物事を決めているという。
そうそう、もう1台の新車のままの100RSが、
気になるので聞いてみた。
「10年目で乗り替えるつもりだから、もう
いつおろしてもいいと、思っているんだけど、
今、乗っているのが、ぜんぜん壊れてくれないんで、困って
るんですよ(笑)。還暦を迎えたとき、おろ
そうかな?と思ったけど、別な考えがあって
見送った。もちろん、時々、エンジンはかけて
いるけどね」。
今、乗っている100RSが、毎日の足として、欠かせない
1台となって久しい。
というより「年間稼働
330日」というペースを
ほとんど変えずに20年
も続けていれば、
これこそ『生活に蜜着して
いるバイク』といえる。
雨の日、寒い日を
問わず、毎朝、出掛けるとき
には、何のためらいもなく
100RSのエンジンをかける。
これほど、バイク
と人の密接な関係を
私は、ほかに見たことがない。
鈴木さんの100RSは
36万8000kmを超えて
いた。実に驚異的な数字
である・・・。
備考:この内容は、昭和53-12-16発行
八重洲出版 「MOTOR CYCLIST」より
紹介しました・・・。