【不気味な唸り声がドンドン近づいてきて・・・】
遠く離れた町角で、なにかの唸り声がしたような気がした。
「今、何時ごろかしら?」
と、小枝子は、ねぼけたままで自問した。
時計に手を伸ばせば、すぐに分かることなのだが、身体が動かない。チアリーダ
ーとして、昨日の体育祭で、張り切りすぎたためか、身体の節々も痛いし、だるさが
身体全体を覆っている。
ぼんやりと、闇の中で天井を眺めていいると、時計の音だけが、はっきりと聞こえる。
目が覚めたのか、まだ、眠っているのか、自分でも自覚できない。
こんな状態は、今までにも何度か体験している。「カナシバリ」ってやつよネと、
小枝子は、自分に言い聞かせようとしたが、今度だけは今までとは、違うようだ。
周りの音だけが、いやにハッキリと聞こえ始める。自分の心臓の鼓動、時計の音、
遠くを走る車のエンジン音。
そろそろ、夜明けが近いのかしら?と思ったその瞬間、あの不気味な唸り声が、
また、聞こえた。
一体、何が唸っているのかしら? 犬の遠吠えでもなさそうだし、今までに聞いた
こともないような、恐ろしげな唸り声。ふと、背筋が寒くなる。
その、唸り声は、徐々に小枝子の家に近づいて来る。下で寝ている両親を呼ぼう。
下に降りて行こう。そう思うのだが、身体を動かすことができない。
やがて、唸り声は止んだが、足音だけは、庭伝いに、玄関の前までやってきて、
止まったような気がする。泣き出しそうになる。早く誰か助けに来てほしい。パパや
ママは、何をしているのだろう?
玄関を入って、階段を登ってくる足音は、小枝子の部屋の前で止まった。得体の
しれない何者かが、部屋の中の様子を伺っている。
小枝子は、ベッドから抜け出て、逃げ出すことさえできない。
ギィィィー。ドアの蝶番がきしむ音がした。
最後の力をふりしぼって、叫ぼうとする小枝子。
と、ドアが激しい勢いで開けられた。
「小枝子! いい加減に起きなさい。学校に遅れるわよ!」
備考:この内容は、1995-8-5 KKベストセラーズ
奥成達著「子供の読めない童話」より紹介しました・・・。