【怖い夢から怪奇が突然はじまる】
「夢の扉」
■夢かうつつか・・・・・・
突如として人は、
ミステリーゾーンにはまり込む
他人の夢に、いちいちかまっては
いられないという気持ちはよく分かるが、
しかしH枝さんの次のような夢については、
思わず、さもありなんと、あなたも
きっと、引き込まれてしまうことだろう。
H枝さんは、このところ、ずっと同じ夢
を繰り返し見る。
それは、ある湖畔にそってつづく細い道
だ。彼女は、いつもその道を歩き、やがて
坂道をのぼり、行き止まりになった小高い
丘に行きつき、小さな白い一軒の家を
見つける。
家の煙突から、かすかな煙がたちのぼり、
窓辺には、たくさんの花が咲き乱れている。
そして、ノックすると、やがて、木製の
ドアがきしみ開けられ、中から白髪の品の
いい老人が何事かと不審そうな顔で
出てくる。
彼女は、うれしくなり、なにか、声を
かけようとするのだが、決まってそこで
ふっと目が覚めてしまうのである・・・。
何回も同じ夢をみているので、道の
風景や丘から見下ろす湖の輝き、刻明に
みんな覚えてしまっている。しかし、いつも
老人がドアを開けて出てくるところで、
目が覚めてしまうのだ。
ある日、H枝さんは、仲間の友人たちと、ドライブに山中湖畔へ遊びにでかけた。
ところが突然、車の窓から、あの湖畔に沿って、つづく細い道、そっくりの道を偶然
見つけてしまったのだ。
間違いない。いつも見ているあの道だ。くっきりと夢とは思えないほど、刻明に
覚えている。あの白い家へつづく道の入り口が、そこにあったのである。
「ちょっと、10分だけ、ここで待っててくれる・・・」
H枝さんは、友達に、そう言い残すと、胸踊らせながら、しかしちょっと
こわごわと、いつもの夢のように丘につながる道をのぼりつめた。
まったく、どこも夢で見た風景そのままだ。
あわてて、ドアをたたいた。
すると、案の定、あの老人が出てきた。
「あの、このお家は、どなたのお家なんですか?」
「もちろん、わたしの家だよ。静かな、静かな、わたし1人の、いこいの家だった
んだ。あなたが毎日ドアをたたくようになるまではね」。
老人は、そういうと、不愉快そうにバタンとドアを閉めた・・・。
備考:この内容は、1995-8-5 KKベストセラーズ
奥成達著「子供の読めない童話」より紹介しました・・・。