「ゴースト」
幽霊が困っている、という話しをよく聞く。出没場所の環境劣化に悩んでいるというのだ。劣化
にもいろいろあるが、最大は、光害だそうだ。この夜から闇がだんだん消えていく。これは幽霊
の「●活」問題である。
専門家からの指摘もある。〈私たち現代人は膨大なエネルギーを用いることによって、広大な
光の領域を人工的に獲得し闇の領域の縮小を実現したのである。〉(小松和彦『妖怪岳新書』
小学館)。この著書は、妖怪たちの〈存亡の危機〉という表現を使う。ちなみに、著者のいう妖怪
は、幽霊、化け物を含んでいる。
「シックス・センス」
当たり前のことだが、かつては夜は暗かった。暗闇で草木はざわめき、獣たちがうごめいた。
昼とは違う異界を作った。戸外だけではない。室内も明るくはなかった。行灯やロウソクの
あかりは、微妙な陰影を生み出した。そして、幽霊にとってはむしろ、この室内が出没地
としては好適だった。
「リング」
いまは昔の話である。小松氏は、光害のほかに、「開発」を妖怪危機の原因にあげる。田園や
森林が〈どんどん開発されて、工場や住宅地になり、妖怪空間は人間の住む空間、人間の支配
する空間に変貌していった。奥行きのない均一的な空間になって、異界との境界がぼやけて
しまったのだ〉。
「JUJU Sign MVより」
こうして、妖怪たちは困った。担当の役所もはっきりしない。保護組織にも今の所あま
り力はない。となると頼みは、子どもたちだ。彼らの想像力とクチコミで延命を図ろうとする。
出没場所は夜の学校だ。この数年の『学校の階段』ブームには、たぶんそんな背景があった。
ただ子どもたちは飽きっぽいから、いつまで「学校の階段」でしのげるかはわからない。
幽霊の身になってみると、私達があまりに闇を疎んじて来たのがわかる。せめてお盆ん
ひととき、灯りを消し闇に身を置いてみようか・・・。
備考:この内容は、1997-4-15 朝日新聞論説
委員室著「天声人語」より紹介しました・・・。