大阪には面白い人は多い。全員が全員というわけではないが、東京に
比べればはるかに笑のセンスに長けた人であふれている。それは紛れもない事実だ。
12月某日。取材の合間に趣味の競馬を楽しむため、ウインズ梅田(場外馬券
売り場)を訪れた僕を待っていたのは、天才と呼ぶにふさわしい、超絶的に話の
おもしろいお父さんだった。見た目年齢は60台前半。お仲間らしき人たちと
馬券購入用のマークカードを塗る台を囲み、和やかな競馬を楽しんでいた。僕は
たまたま、そのお父さんの隣に陣取ったのだった。
「当たらんな~。今日は当たり馬券、売っとらんな」
出た! 外れ馬券オヤジの常套句。日本全国津々浦々、ギャンブル場で必ず
聞かれるお決まりのセリフだ。しかし、さすが大阪。このお父さんのボヤキには
つづきがあった。
「(あたり馬券を)売り場の裏に隠しとるな。券売機が俺のお金をちょろちょろ
ちょろちょろ持っていきよる。(サイフを覗いて)一万円札もな~い。千円札も
な~い。あか~ん。もう、百貨店の商品券しかないわ」
これを聞いて、思わずクスッとなってしまった。 独り言なのか? それとも誰かが
突っ込んでくれるのを待っているのか? ともかく、表情ひとつ変えずに
たんたんとつぶやくこのお父さんの姿が、おかしくて仕方がなかった・・・。
備考:この内容は、2014年2月21日発行 宝島社 「大阪トレンディ」より紹介しました。