よく知らない国へ行くと、風俗習慣の違いがあって、
よかれと思ってしたことが、じつは相手にとってたいへん
失礼になっていることがある。
ミクロネシアのある島へ長期リゾ-トに出かけたY氏は、
日本では温厚でよく気の付く紳士として通っている。
お世話になる村の村長を訪れた時も、村長さんの
唯一の衣装であるフンドシをさりげなく褒めることを
忘れなかった。
彼は、本当にさりげなく「そのフンドシいいですね」と
言っただけなのに、その村長さん、なにを思ったか奥へ
行くとフンドシを脱いでY氏にプレゼントしようとする
ではないか!?
これにはY氏もビックリ! いくら村長からの贈り物とは
いえ、そんなものもらってもどうしようもない。しかし
断るのも失礼かと、ありがたく頂戴しておくことにした。
それからも気のいい島の人たちは、Y氏が褒めたものを
なんでも惜しげもなくくれた。Y氏もさすがにちょっと
おかしいと思い始めたある日、村の老婆が「あんたは、
なんてゴウツクバリなんだ!」という。 相手の持っているものや
身に着けているものを褒めるのはYさんの社交辞令
なのだが、この島では「褒める」ということは「欲しい」と
いっているのと同じだったのだ。
それを知った途端、自分がいかに無遠慮に人にものを
ねだっていたのかと、恥ずかしさでいっぱいになった
Y氏であった・・・。
備考:この内容は、1994年1月5日発行
河出書房新社「世にも恥ずかしい人々2」より紹介しました。