教育熱心で国民の意識も高く、東南アジアにあって
治安も水も安心な国と言われるシンガポール。整然とした
街並みが美しく、旅行者の目を楽しませてくれるが、マナーの
悪い人にとっては、いささか窮屈なところもある。
「シンガポールじゃ、さんざんな目にあったよ」
と頭をかくのは、教材販売会社に勤めるAさん。
彼は小さいころから喘息をわずらったことがあり、ときどき
歩きながらタンやツバを吐くクセがある。シンガポールでも、
道を渡りながらついいつものようにやってしまった。
すると、いきなりどこからともなく警察官があらわれて、
「あなたは横断歩道を渡らなかったので50ドルの罰金。
道路にツバを吐いたので、さらに500ドルの罰金だ」
と、警察にまで連行されてしまったのである。
「それはないよ」と思いつつタバコに火をつけたら、
署内は禁煙。またまた罰金500ドルときた。Aさんはなにも
知らない外国人ということで、勘弁してもらったが、
ホテルに帰る道すがら、くれぐれもツバを吐かないように、
タバコも吸わないようにと細心の注意を払って、ようやく
自分の部屋にたどり着いた。
安全地帯に入ったようでホッとしたのもつかの間。
ズボンのお尻のポケットに手をやってビックリした。
「ない、サイフがない」
罰金は免れたが、スリにあって、結局身ぐるみ
はがされた彼であった。以後、Aさんはプライベートではいっさい
外出しなかった。いや、怖くて外出できなかったという
ことだ・・・。
備考:この内容は、1994年1月5日発行 夢の設計社
「世にも恥ずかしい人々2」より紹介しました。