「ねずみの名作」 望月新三郎
むかし、ある村に、とんちがうまくて、それはゆかいな、吉四六(きっちょむ)さん
という人が、おったと。
ある日のこと、吉四六さんが小作米のことで、庄屋のやしきを
たずねると、だいじなことはちいともきいてくれんで、こっとう品の
じまんがはじまったとさ。
庄屋さんが、つぎからつぎへと、つぼやら、刀などだしてきて、
あれやこれやとじまんをするもんで、
吉四六さんは、すっかりあきれかえって
いたって・・・。
すると、金でこさえた小さなネズミ
をだしてきた。
(やれやれ、今度は、ねずみかいな)
そこで、吉四六さんはいうたんだと。
「よっぽど、りっぱなものかと
思ったら、こんなものですかい?
私の家には、もっと上等なねずみの置物があるじゃき」
庄屋さんは、自慢のねずみをけなされて、機嫌を悪くしたき。
「なんだと!お前の所に、そげんなりっぱなネズミが
あるとな? うそではないじゃろな?」
「ありますき。明日にでもお目に賭けましょう」
吉四六さん、でたらめをいってしまったが、もう、引っ込めるわけに
いかなくなったき。
「ようし、明日、必ず、すのねずみの置物を持ってこい」
「はい、はい」
吉四六さんは家に帰ると、首をかしげて、あちら、こちらと
歩き回ったが、はたと、胸をたたいて、何かをこつこつと
刻みだした。
夜通しかかって、ようやく、ネズミの彫り物をこしらえたきに。
朝になっると、吉四六さんは、彫り物を風呂敷につつんで、庄屋さんの
屋敷に出かけた。
「庄屋さん、我が家のたからもの、ネズミの置物を持ってまいりましたさ」
「ほう、きたか?うちのねずみが、おまちかねだ」
「ところで、庄屋さん、ネズミのよい、悪いは、人が見て、
すぐにわかものではありません。ねこならわかるき、ねこを呼んでくれませんか?」
「うーむ、よかろう。三毛や、こっちにこい」
庄屋は、さっそく、三毛猫を呼んでくれたと。
「それに、もうひとつ」
「なんじゃ? まだあるのか?」
「どちらがすぐれているか、この勝負にかった人が、
負けたネズミをもらうことにしましょう」
「なるほど、なるほど」
庄屋さんは、自分のねずみに自信があるので、もう、すっかり
勝ったつもりでいるさ。
こうして、約束まとまって、吉四六さんは、ふろしきをひらいて、
ほりたてのねずみを、金のねずみのよこにならべた。
「なんじゃい!?吉四六。そうみても、こりゃ、ねずみじゃなか。
棒切れだぞね」
「えー、棒切れとは、ひどいことを」
そのときだって、庄屋さんのひざの上にのっていた三毛ねこ、
すばやく、吉四六さんのねずみにとびつくと、口にくわえたと。
吉四六さん、このようすを見て、
「やっぱり、ねこはようしっておりますけん。わしの家のねずみが
かちやき」
そういって、金のネズミをふろしきにつつんだと。
庄屋さんは、信じられぬとばかり、大きな口をあけるばかり。
吉四六さんのねずみはなぁ、かつおぶしできざんであったなう。
おしまい ちゃんちゃん米んだんご
備考:この内容は、2000年3月3日発行 童心社
「ワールドわらいツアー」より紹介しました。