『おばあちゃんはハーレーにのって』
ニーナ・ボーデン
最高のおばあちゃん
主人公キャットは、12歳の少女。おばあちゃんと
二人暮らしをしている。
おばあちゃんは、かなり個性的だ。いつもジーンズに革ジャンと
いういでたちに、長い白髪を背中までばさばさ伸ばし、おまけに
「ハーレーをブイブイ飛ばす」のがお気に入りときている。
外見におとらず、性格も豪快だ。「コーラを飲んでいい?」
と聞けば、「さあさあ、どんどん飲んで虫歯をどっさり作ったら?
かまわないから・・・」などと言い放つ。なんとなく、おばあさん版
メアリー・ホプキンスのようだ。
ところで、キャットの両親は健在だ。ともに俳優で、巡業の舞台に忙しいため、キャットが
まだ幼いころ、おばあちゃんにあずけた。
それ以来、ずっとふたりの生活が続いている。当初はむくれて、
おばあちゃんに反抗していたキャットだが、今ではおばあちゃんと離れることは
考えられない。
ところがある日、両親が腰を落ち着けることに決めて、家を買い、キャットを引き取りたい
と言ってきた。
実の両親なのだから、なにも問題はないはずだが、ことはそんなに簡単ではない。キャットは、
ずっと離れて暮らす両親に対して、あまり親近感がわかない。もちろん、おばあちゃんと別れる
なんて論外だ。けれど、両親は子供と暮らす権利がある。
困ったキャットは、弁護士に相談に行く。おばあちゃんとずっと暮らすために、自分の気持ちを
裁判で訴えるつもりなのだ。はたして、キャットは無事おばあちゃんと一緒にいられる
ことになるだろうか・・・?
なによりも、このおばあちゃんがカッコいい。
まず、服装やハーレー・ダヴィットソンなど、年齢に対する固定観念をかろやかに崩して
いて、見ていて爽快だ。表紙の絵のように、堂々としているから、ジーンズもハーレーもとても
ハマっている。友達のおばあちゃんとぐちぐち比べるキャットのほうが、よほど頭がかたくて
ババ臭く思えてしまう。
もちろん、カッコいいのは、見た目だけではない。その生き方もドラマチックである。
お医者さんのおばあちゃんは、ポーランドの病院につとめていたが、戦争中に爆撃されて、イギリス
に移った。そこでおじいちゃんと会い、結婚したものの、キャットの母親が生まれる一ケ月前に、
おじいちゃんは亡くなった。その後、おばあちゃんはロンドンの病院に勤め続け、
家を買った。
おばあちゃんは病院を退職したあとも、自宅で患者さんを診ている。しかも、ほとんどが
年寄りでお金のない患者さんばかりなので、診察代はもらっていない。こういうことを、さらっと
当たり前にやれるところが、おばあちゃんの人間性の高さを示している。
そんなおばあちゃんでも、キャットのことになると少しちがう顔を見せる。キャットが同級生に
いじめられたとわかると、その子に向かって氷のような声でおどしをかける。あとで、
おばあちゃんは、大人げなかったと反省するのだが、孫のためなら子ども相手でも許さないという
断固とした態度が、キャットとの絆として現れていて、かえってほほえましい・・・。
さて、おばあちゃんが素敵な一方で、キャットには身勝手な両親がいる。
物語の中でも、現実でも、程度に差はあれ、親として失格? と思えるような大人は
少なからず存在する。キャットの両親は、世間では有名な役者だ。だが、子供よりも仕事に生きて
きたため、キャットにすればダメ親になる。それなのに、とつぜん一緒に暮らしたいと
いいだしても、反発されるのは、ごく自然な流れだろう・・・。
けれど、キャットにあげたプレゼントの山のなかに、図書券が入っていたりもする。それまでは
両親に腹を立てていたキャットだが、自分のことを少しは知っているとわかると、泣きそうに
なる。子供のことを気にかけないように見えても、実はそうでもない、という作者ボーデンの、
なかなか思いやりあふれるフォローだ・・・。
物語は、最終的には、キャットが幸せな形で落ち着く。ただ、おばあちゃん、たばこは
やめたほうがいいかも・・・と思っていたら、なんと、キャットのために長生きしなくちゃと思い立ち、
これも最後に実現する。
こうなると、ゆくところ敵なしかもしれない。
最強のおばあちゃん、永遠なれ!
(神戸万知)
備考:この内容は、2009年9月6日 発行(株)原書房
「ほんとうに読みたい本が見つかかった!」より紹介しました。
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