前代未聞!物語の舞台は他人の夢の中!?
『インセプション』
全米映画史上第4位の歴史的大ヒットを
記録した『ダークナイト』
(08年)の成功により、クリストファー・
ノーラン監督はハリウッドに
おいて屈指の力を手に入れたと
言えよう。 そんなノーラン監督が長編
デビュー作『フォロウィング』(98年)
以降となるオリジナル作品に挑んだ
のが、この『インセプション』だ。
ノーランが選んだの題材は「ハンスト
(強盗)・ムービー」。 スーパーヒーロー
映画『ダークナイト』のモデルと
してマイケル・マン監督作『ヒート』
(95年)を挙げた、ノーランらしい
選択である。
あらすじを見てみよう。
「仕事」に失敗したお尋ね者の主人公コブ
(レオナルド・ディカプリオ)はその
ターゲットである日本人企業家サイトー
(渡辺謙)に腕を見込まれ
スカウトされる。サイトーの力でこれまでの
罪を帳消しにして足を洗うため、
各方面のエキスパートを集めて最後の
大仕事に挑む。 しかし、彼の捉える
トラウマが仕事の遂行に大きく影を
落としていく・・・。
そう、プロットは、まさに典型的な
ハイスト・ムービー。 しかし本作が
型破りなのは「犯行現場が夢の中」
ということである。舞台は他人の夢に
入り込む技術が確立された世界。
コブが盗むのは金品などのモノでは
なく「アイデア」。本作で描かれる
最後の大仕事とは、昏睡させた他人
の深層意識に入り込み、逆に別の
アイデアを埋め込むことなのだ・・・。
『インセプション』は作品内独自の
「ルール」を規定している。例を
挙げると、
本作の設定では夢の中で
さらに別の夢を見て、その中に入り込む
ことが可能になっている。 そうやって
レイヤー化された「夢の階層」は
下っていくほどに時間経過が遅く
なり、また上の階層における物理状態は
次の階層に影響を与える。
このような「言ったもの勝ち」のルールが
しっかりと機能し、作品は複数の夢の
階層が干渉しあう、多重タイム
リミット・サスペンスへとなだれ込む。
夢の階層には異なった味付けの
ビジュアルとアクションが用意される。
第1階層は雨降る市街地での
銃撃戦とカーチェイス。
第2階層の
ホテルでは第1階層の影響で重力が
異常をきたす中、コブの片腕アーサー
(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)
が縦横無尽の超絶アクションを披露。
ターゲットの深層意識の”砦”
である第3階層では、それを象徴する
「雪山の要塞」をめぐり大スケールの
攻防戦が展開される。さらにコブが
仕事と自身のトラウマに決着をつける
意識の最深層「虚無」の威容・・・。
「もっとでかい夢を見るのにビビっ
てちゃいけないぜ」という仕事
メンバーのイームス(トム・ハーディ)
の台詞が象徴するように、どこまで
もスケールが拡大していくのだ・・・。
しかし、ひねった構成や圧巻の
ビジュアル以上に印象深いのは、本作に
あふれる「エモーション」である。
そもそも現実世界でもハイスト・
ムービーとして十分に成立する物語の
舞台をなぜ「夢の中」へと変更した
のか?
ノーランに弁によれば、
発想の原点は感情表現が「表面的」に
なりがちなハイスト・ムービーの弱点を
「夢」 「記憶」という 「感情
そのものの場」を舞台にすることで、
克服する」ためなのだという・・・。
結果、『インセプション』は
「自分自身と向き合う=セカイと向き合う」
というノーラン作品の根底に
あり続けるテーマ性を、より高めた
作品になっている。幻の押井守版
『ルパン三世』が実現していたら、この
ような作品になっていたのかも
しれない・・・。
(キシオカ)
備考:この内容は、2012年8月21日 発行
「異次元SF映画100」より紹介しました。
Android携帯からの投稿