小説こちら葛飾区亀有公園前派出所 | Q太郎のブログ

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パクリもあるけど、多岐にわたって、いい情報もあるので、ぜひ読んでね♥
さかのぼっても読んでみてね♥♥



幼な馴染み     大沢在昌




 正月明け早々、休みが取れたと昌(しょう)から連絡があった。


「浅草いってみたいいだよね。初詣でって奴」


 鮫島は絶句した。元旦は過ぎたにせよ、正月の浅草寺、仲見世は、地方から


の観光客も多く、人でごったがえす。そんなところに昌が現れたら、どんな


騒ぎになるか。最近は、一時よりテレビ出演を控えているらしいが、ファンには


一目でわかるだろう。




 昌がボーカルをつとめるバンド「フーズ・ハニイ」は昨年の秋、新しい


アルバムをリリースした。100万にもう少しで届く、という売上だったらしい。



「何、黙ってんだよ? あたしといっしょじゃ浅草も歩けないっての?」



 鮫島の沈黙の理由を悟ったのか、昌はとがった声をだした。



「新宿がまずいっていうから浅草にしたんだ。あたしだって、たまには神社仏閣


ってところにも行きたい」




 確かに新宿は、893、チンピラに昌が からまれる可能性は高くない。



「それともどこだろうと、あたしとじゃ嫌なわけ?」



「そうじゃない、そうじゃないが・・・」



「だったら決まりね。そうだ、前に藪さんがあっちの方の出身だっていってた。


じゃ。藪さんも誘おうよ。おいしいご飯とか知ってるかも」



 2人きりよりはましかもしれない。露骨に”デート”という印象でな


なくなる。



「だいたいね、考え方が古いんだよ。別にアイドルやってるわけじゃないんだから。


男といっしょに歩いたって、文句言われる筋合い、ないっての」




 昌の勢いに押された。このところ、街なかで合う機会がめっきり減っていて、


それに対する不満が昌には たまっているようだ。



「わかった。藪に聞いてみよう」



 しかたなく、鮫島はいった。



「おっしゃー。約束だかんね。ドタキャンしたら殺すよ」



 物騒なことをいって、昌は電話を切った・・・。










つづくといいね・・・


備考この内容は、2011年5月25日 発行 集英社文庫

「こちら葛飾区亀有公園前派出所」より紹介しました。