「流血したままCDを買いにいく」 匿名希望
あらは、小学5年生の夏。
留守中の自宅で耳掃除をしていると、耳かきに付いているフワフワの白いやつを左耳
に刺してしまった。
今までに経験したことのない激痛。 グサッという鈍い音と共に、温かい液体が左の
耳の中いっぱいにあふれてきた。
「ギャ~~~ッ!」
床の上でごろごろ悶えながら泣き叫んでいた。 フワフワは真っ赤に濡れ、血は
止まることなく流れ出ている。
そんなとき、父が帰宅した。 父は泣き叫んでいる私をしばらくながめ、
冷静に言った。
「おい、早くしろ。 CD買いに行くぞ」
CD? 何言ってんのお父さん? 血、出ているんだよ?
ビックリした私に、父はさらに言った。
「お前がCD買いに行くから車載せろって言ったんでしょうが? エンジンかっけぱ
なしだから早くしろ。何ゴロゴロしてんだよ!」
父に「耳から血が出て痛い」と訴えたが、
「血はすぐに止まるから大丈夫。 早くしないと乗せていかねーぞ!」
と、追い打ちをかけてきた。 妙に冷静になってしまった私は、涙目のまま財布を手に、
「行きます」
と、言って父の車に乗り込んだ。
CDショップで欲しかったCDを片手に(片手は左耳を抑えて)、店員のもとへ。
「1030円になります」
と言われ財布からお金を出そうとしたが、なにしろ片手が使えないためうまく
出せない。
わたしは、一瞬、耳から手を放してすばやく財布から1030円を出そうとした。が、
店員の目の前で、私の左耳からは血が流れ出てきた。
カウンターに私の耳から血が流れ落ちた。 気が動転した私は、自分のTシャツの
袖でそれを拭いてごまかそうとした。
CDショップの店員が声をかけてきた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫ではありません。 ありがとうございました」
CDショップを出ると、肩は真っ赤に濡れていた。
死ぬかと思った・・・。
備考:この内容は、2010年2月22日発行 (株)アスペクト 林雄司 著
「死ぬかと思った 5」より紹介しました。