「あれっ?」
大正の末から昭和のごくはじめのころ、ラジオ放送がはじまった。
放送には高いところが、必要だったので、芝のあたご山の何十段も
あろうかという急な石段の上に、放送局が建てられた。放送は
すべて生放送である。
あるアナウンサーが、放送する人を紹介した後、最後に「これで
おしまいです」というまで、ずいぶん時間があった。
「腹も減ったし、ちょっとそばやに行ってくるか?」
とんとんと石段をおりて、そばやに入ったんだそうな・・・。
そばやに入ると、ちょっと一杯お酒を飲みたくなるもんでね。
1杯が2杯、2杯が3倍、おちょうしを並べているうちに、
時間が経つのを忘れてしまった。はっと、気が付いたら、放送の終わる
まで1分しかない。とてもあの石段を駆け上がっては間に合わない。
「ちょっと☎を貸して・・・」
宿直に電話をかけて、わけを話した。宿直から、当直の
アナウンサーに話が言った。この夜の当直が
謹厳実直で有名な松田アナウンサー
である。松田さんはモーニングを
きて出勤、マイクのまえで最敬礼
うをしてから放送するという人だった。
松田さんはそのとき、ちょうど
風呂に入っていたんだそうな・・・。
時計を見たら、もう体を拭いている
ひまもない。すっぱだかでとぶだして、
スタジオのマイクの前に
たったそうな・・・。とたんに、こういってしまったんだっと。
「はだかで失礼します・・・。」
備考:この内容は、吉沢和夫著 「ワールドわらいツアー」より紹介しました。