むかし、おじいさんとおばあさんが山のふもとに
住んでいました。おじいさんは、山で炭焼きをするのが
仕事です。
あるカンカン照りの夏の暑い日。いつものように、山へ
出かけたおじいさんですが、なぜか思うように体が
動きません。
「いやあ、なんて暑い日だ。喉がカラッカラじゃわい。
それに、年のせいじゃろうか、手足がなまりのように
重くてたまらん。おや、こんなところから、チョロチョロ
と水がわき出ておるぞ・・・。昨日降った雨のせいじゃろうかのぅ?」
おじいさんは、岩の間から流れ出ている水を口に
含むと、ゴクゴクとのどをならして飲みました。
とってもおいしくて、冷たい水だったので、ついでに
顔や手も洗いました。
「ああ、さっぱりした。体が軽くなって力が
沸いてきたぞ」
元気モリモリになったおじいさんは、その日の仕事を
あっという間に片付けてしまいました。
「ばあさんや、帰ったよ」
「あらら、あなたは、どなたさまで?」
「なにを成寝ぼけておる。わしじゃよ、わし!」
と、言いながら、おじいさんは水桶に映った自分の
顔を見てびっくり。
「なんとまあ、あの水のおかげかな? どうも若返って
しまったようだ」
「まあまあ、若い頃のじいさんにそっくりと思ったら、
本当におじいさんなのかい?」
おじいさんが、その水のことを話すと、おばあさんは
もう、いてもたってもいられなくなりました。
「わたしもそこへ行って、水を飲まなきゃ・・・」
と、すたこらさっさと出かけて行ってしまいました。
しかし、おばあさんはいつまでたっても帰って
来ません。とうとう日も暮れてしまいました。おじいさんは、
おばあさんのことが心配になって山へ向かいました。
真っ暗な山道をたどり、水が湧き出たところに着くと、
オギャー、オギャーと赤ん坊の、泣き声がします。
「あれあれ? ばあさんたら、
水を飲みすぎて、赤ん坊になってしまったわい」
おじいさんは、よっこらっしょっと、
赤ん坊をおぶって、
家へ戻って行きましたとさ・・・。
備考:この内容は、2011年9月22日発行 ナツメ社
「母と子のおやすみ前の小さなお話 365」
より紹介しました。