カーレンという美しい娘が、おかあさんとふたり
で暮らしていました。とてもまずしくて、カーレンは
いつもはだしです。かわいそうに思った靴屋の
おかみさんが、布で赤い靴を作ってくれました。
ある日、病気だったお母さんが亡くなって、
カーレンはひとりぼっちになりました。お葬式なのに、赤い靴
しかありません。
「でも、わたし、赤い靴が大好き」
ふびんに思った親切なおばあさんが、身寄りのない
カーレンを引き取りました。
「日曜は協会へ行きますよ。洋服と黒い靴を買って
あげましょう」
おばあさんはそう言うと、カーレンを連れて町へ
出かけました。靴屋さんの扉をあけたとたん、カーレン
の目にとびこんできたのは、革でできたピッカピカの
赤い靴。
「おばあさん、これがほしいの」
目の悪いおばあさんは、それが赤い靴とは知らずに
買ってしまいました。
教会へ行く時は黒の靴をはくのが決まりです。でも
赤い靴をはいてきたカーレンを見て、みんなはびっくり。
お祈りがはじまっても、カーレンはうわの空です。
うっとりと赤い靴のことばかり考えていました。
おばあさんもカーレンの赤い靴にやっと気づいて、
「教会へは2度と赤い靴で行ってはいけないよ」
と、カーレンをしかりました。
次の日曜です。おばあさんが重い病気になって
しまったので、カーレンはひとりで教会へ行くことに
なりました。約束を守らずに、足には赤い靴が光っています。
教会の入口にいた赤いヒゲのおじいさんが、カーレン
の足元を見て言いました。
「なんと、きれいなダンス靴!
靴よ、いつまでも踊り続けろ!」
すると、どうでしょう。
カーレンが教会に入ろうとしても、
足が言うことをききません。
それどころか、おどりだしてしまいました。
「お願い、止まって!」
カーレンがいくら言っても、靴は止まりません。雨の
日も風の日も、カーレンはおどり続けます。家の前を
通ると、病気のおばあさんは亡くなっていました。
「おばあさん、ごめんなさい」
カーレンが泣いて叫んでも、おどりをやめること
はできません。野原を横切り、川をわたって、
とうとう山のふもとまできました。それでも足は、飛んだり
はねたりして山を登っていきます。山奥には首切り役人
の小屋がありました。
「お役人様、どうぞ、わたしの足を切ってください」
首切り役人がカーレンの足首を切ると、赤い靴は足と
いっしょに森の奥へおどりながら消えて行きました。
役人に木の足を作ってもらったカーレンは、教会で
いっしょうけんめいに働きました。そして、もう2度と
赤い靴を、はくことはありませんでした・・・。
備考:この内容は、2011-9-22発行 ナツメ社
「母と子のおやすみ前の小さな話365」より「紹介しました。