ぐれてる女の子
グレーテルという女の料理人がいました。おいしい
お料理を作りますが、食べることも大好き。おまけに
ワインも大好きでした。
ある日、家の主人がグレーテルに言いました。
「今晩、お客さんが見えるから、とり肉をじょうずに料理
しておくれ」
「かしこまりました、だんなさま」
グレーテルは、とり肉料理の準備を始めました。夕方
になると、オープンにとり肉を入れて焼き始めました。
「だんなさま、お客様はまだですか?とり肉が
ジュワジュワと よいきつね色になってきたんですが・・・」
「おかしいなあ。もう来る頃なんだが・・・。よし、ひとっ
走り、迎えに行ってこよう」
主人が出て行くと、グレーテルはワインを用意しま
した。
「オーブンに火を入れていると、あつくてのどが
かわいちゃった。ちょっと一杯だけ・・・」
そう言うと、グレーテルはググッと一杯のワインを
飲み干しました。オーブンをあけると、とり肉の焼けた
よいにおいが部屋中にたちこめます。
「今が、おいしいときなのに、まだいらっしゃらない
のかしら。おいしいかどうか、ちょっと味見をしてみよう」
グレーテルは、わからないように一口食べてみました。
「まあ、なんておいしく焼けたのかしら。それにしても
お客様、おそいわねえ」
がまんできなくなったグレーテルは、ワインを
ゴクり。とり肉をパクリ。もう一杯ゴクリ。そしてパクパク
パクリ。とうとう全部食べてしまいました。
そこへご主人が息を切らして帰ってきました。
「グレーテル、今、お客さんが見えるから、すぐ食べられる
ようにしておくれ」
そういうと、主人は、とり肉を切り分けるナイフを
カシャカシャと とぎ始めました。
グレーテルは玄関に行くと、ベルをならそうとする
お客さんに向かってささやきました。
「お客様、おしずかに。今日、だんなさまがあなたを
お呼びしたのは、あなたの両耳をちょん切るためなのですよ。
ほら、ナイフを とぐ音が聞こえるでしょう?」
お客は驚いて、帰ろうとしました。それに
気づいた主人は、ナイフをもったまま、玄関に出ていきます。
「おい、どうしたんだい?今、切ろうと思ったのに・・・」
その姿を見たお客は、飛び上がって逃げ出しました。
主人はわけを聞こうと、お客を追いかけて行って
しまいました・・・。
備考:この内容は、2011年9月22日発行 株式会社ナツメ社
「新版 母と子のおやすみまえの小さなお話365」より紹介しました。