「みにくいあひるの子」だった私 梅宮アンナ
(講談社・2001年3月・1300円)
パラサイト・シングルのお嬢さんと恋愛中の男性必読の書
梅宮アンナ「みにくいあひるの子」だった私』を読んで思い出したのは1990年のベスト
セラー、二谷友里恵『愛される理由』(朝日文庫)である。
梅宮アンナと二谷友里恵。このふたりって似てませんか? 著名な映画俳優の一人娘として
生まれ、何不自由のない少女時代をすごし、自分もなんとなくデビューし、本業ではパッとしない
まま同業の男性と恋愛をして有名になり、相手の男は芸能界の古株である彼女の親に気に入られ
ようと懸命に努力したものの、結局はうまくいかずに別れてしまった。経歴のみならず、本から
透けて見える彼女らの自己愛の強さ、親離れのできなさもある意味そっくり。
もしもあなたが男性で、親と同居している娘と恋愛中だったら、後学のために本書をぜひ
読んでおくといい。経済的にも精神的にもパラサイト・シングルな娘と恋愛するってこういうこと
なのか・・・とよくわかる。敵は手ごわいぞ。なにしろ家族ぐるみだからね。
まず、彼女はあなたを親に紹介したがるだろう。なぜって? (私が付き合う人は、家族ぐるみで
迎えるのが我が家のしきたり)だからである。浮気なんかしたらもうたいへん。(「彼の部屋に
行ったら、ほかの女の人がいたの。私、別れることにしたから」)と、彼女は(さっそく父にも
報告)する。娘が娘なら父も父で、(父はもう大喜び)。/よーし、よくやってくれた。梨本に
電話するぞ」)と応じるのである。
いつも親に守られてきた彼女は都合のいい時だけ親を利用し、都合が悪いことは親に隠し
立てする術にも長けている。父のベンツを壊したときには巧妙に隠すくせに、困ったときは親頼み。
男と別れる決意をした彼女は、(「ねえ、パパ、私が帰っても、うちにわたしの部屋、もうないよね?」)
と探りを入れ、結局は(名実ともに両親のもとに戻ることにな)るのだ。
「みにくいあひるの子」みたいに自分は遠回りして自立した、それが署名の由来というけれど、
自立してねーじゃん。『愛される理由』を読んだときには「こんなお嬢さんと結婚するのか?」と
郷ひろみに同情したが、この本を読んだ私はすっかり羽賀研二に同情した。
友里恵と別れた郷は『ダディ』で一応のリベンジに成功した。羽賀も対抗本を出すべきだろう。
書名はもちろん『「マッチ売りの少女」だった僕』で決まりでしょう。身ひとつで街に出てきた
ものの、借金はかさむばかり。マッチをさすっては消す火遊びにも興じたが、結局は見捨てられた
僕。ハッピーエンドのあひるの物語より、価値があると思いますけどね・・・。
*
梅宮アンナは、この本の出版後、芸能人ではない男性と結婚、1女の母となるも、03年2月に
「私の理想の男性はパパ」という名台詞を残して離婚した。羽賀のときとおなじような会話が
梅宮家ではまたかわされたのだろうか?究極のパラサイト娘というべきであろう・・・。
備考:この内容は、2005年7月30日発行 朝日新聞社 斎藤美奈子著
「誤読日記」より紹介しました。