F県総合植物園プラントピア 園長 松本淳
この原稿を書いている今は、立春もとうに過ぎたものの、
雪が降ったり止んだりして、春の気配は感じられません。
雪の合間に、遅咲きのサザンカが一つ、二つと咲いて
いるくらいです。この時期によくある、「植物園で一番最初に
スイセン
咲く花はなんですか?」という質問には、いつも戸惑ってしまいます。
最初とはいつのことなのか? 1年の初め、1月だとすると、スイセンや
遅咲きのサザンカのなかま、ロウバイといったところでしょうか? しかし、これらは、11,12
月頃から咲いている「冬の花」という印象が強くて、しっくり来ません。日中も薄暗い
マンサク
北陸の冬が終わり、明るい春がやって来たことを知らせる花ということであれば、マンサク
でしょう。丹南地区の山々でも、2月の終わりころから、山道のわきに、黄色い花を見ることが
出来ます。その名前の由来は、枝いっぱいに咲いた様子が黄金を散らしたように見えることから
「豊年万作」をイメージして、とか、「まず咲く」がなまって、とか言われます。マンサクの花
ヒョウガミズキ
が終わる頃、植物園の沿道は、小さな金色の釣鐘のようなヒョウガミズキの花でいっぱい
になります。ヒョウガミズキは、日本海側(兵庫県~石川県)にだけ自生する低木で、
咲き誇る様子は、この地方独特の風景と言っても良いでしょう。
この頃には、林の雪もかなり溶けて、オウレン、
ショウジョウバカマ、カタクリと、草花も次々と咲き始め
ショウジョウバカマ
ます。北陸の春は、雪溶けで水量が豊富なため、春の
草花の生長に適しているのです。とくに、オウレンは、
かつては、薬草として珍重され、奥越地方は中国へも輸出
するほどの名産地だったということです。
キンマメザクラ
やがて、野生のキンキマメザクラが控えめに咲き始め
ると、そろそろ、サクラ前線の話題が出始めます。
雪溶けの頃をスタートに、サクラ前線のゴールを
目指して、早春の花のバトンが渡っていく様は、
冬の憂鬱だった気分を晴らしてくれます・・・。
備考:この内容は、2012年4月1日発行 「ラジマガ」より紹介しました。