世界の中心で愛を叫ぶ 2 | Q太郎のブログ

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パクリもあるけど、多岐にわたって、いい情報もあるので、ぜひ読んでね♥
さかのぼっても読んでみてね♥♥


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 アキとは中学2年の時に、はじめて同じクラスになった。それまでぼくは彼女の


顔も名前も知らなかった。気まぐれな偶然から、ぼくたちは9つもあるなかの同じクラスに桜


編入され、担任から男女の学級委員に任命された。学級委員としての最初の仕事は、


新学期になってすぐに足を骨折した大木というクラスメートを、入院している病院にクラスのさくら


代表として見舞うことだった。途中、担任とクラスの全員から集めたお金で、クッキーと


花を買った。さくら




 大木は足に大げさなギブスをハメられて、ベッドの上にひっくり返っていた。始業式の


翌日に入院してしまったこの級友のことを、僕はほとんど知らなかった。それで病人と桜


の会話は、1年生のときも彼と同じクラスだったアキに任せて、4階にある病室の窓から


街を眺めていた。バス通りに沿って花屋や果物屋や菓子屋などが並び、こぢんまりした桜


商店街を形作っている。それらの街並みの向こうに城山が見えた。新緑の木々のあいだ


から、白い天守閣がわずかに顔を覗かせている。桜



「松本はさあ、下の名前、朔太郎って言うんだろう」それまでアキと話していた大木が、


突然話しかけてきた。桜咲く


「そうだけど」ぼくは窓辺から振り返った。


「こういうのってたまんないよな」と彼は言った。桜☆cherry


「何がたまんないんだよ?」


「だって朔太郎って、荻原朔太郎の朔太郎だろう?」桜



ぼくは答えなかった。


「おれの下の名前、知ってる?」桜


「龍之介だろう」


「そう、芥川龍之介」さくら


ようやく大木の言わんとするところがわかった。


「親が文学かぶれだったんだね、お互いに」彼は満足そうに頷いた。花


「うちの場合はおじいちゃんだけどね」とぼくは言った。


「おまえのじいちゃんが付けたのか?」さくら


「ああ、そうだよ」


「迷惑な話だよな」文鳥


「でも龍之介でまだよかったじゃないか?」


「どうして?」


「金之助とかだったらどうするんだよ?」sakura02


「なんだ、それは?」


「夏目漱石の本名だよ」


「へえ、知らなかった」


「もし、おまえの両親の愛読書が『こころ』とかだったら、いまごろおまえは大木金之助だぞ」コブクロ


「まさか」


彼はおかしそうに笑いながら、「いくらなんでも息子に金之助なんて名前は


付けないよ」桜


「例えばの話だよ」とぼくは言った。


「仮にお前が大木金之助だったとするよな。sakura*01


そしたらおまえは学校中の笑いものだ」


「大木はちょっと浮かない顔になった。ぼくはつづけた。桜


「おまえは自分に こんな名前を付けた親を恨んで家を飛び出すだろう。そしてプロレスラー


になるんだ」


「なんでプロレスラーなんだよ?」桜


「大木金之助なんて、プロレスラーにでもなるしかなさそうな名前じゃないか!」桜


「そうかな?」



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 アキは持ってきた花を花瓶に活けていた。ぼくと大木はクッキーの箱を開けて食べながら、


しばらく文学かぶれの親の話などを続けた。帰るときに、大木は「また来てくれよ


な」と言った。桜の木


「一日寝とくのは退屈だからさ」


「そのうちクラスの連中が交代で勉強を教えに来るよ」スティッチ


「そういうことはしてくれなくていいんだけど」


「佐々木さんたちも協力するって言ってたわよ」矢島美容室


アキはクラスでも美少女の誉高い女の


子の名前を挙げた。矢島美容室


「いいな、大木は・・・」ぼくがからかうと、


「おおきなお世話だ」と面白くもない洒落を言って、一人で笑った。桜吹雪ミニ







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 病院の帰りに、ぼくは ふと思いついて、城山に登ってみないかとアキを誘った。部活に


顔を出すには遅すぎるし、真っ直ぐ家に帰っても、夕食までにはまだ時間がある。彼女は桜


「いいわよ」と言って、気軽に付いてきた。城山の登り口は北側と南側に2箇所ある。


ぼくたちが登り始めたのは南側だった。北側を正門とすれば、こち側は裏門にあたるさくら。


ため、道は細く険しく、登山者も少ない。途中に公園があり、そこで2つの登山道が合流


するようになっている。僕たちは話らしい話もせずに、ゆっくりと山道を登っていった。はなびら。


「松本くんて、ロックとか聴くんでしょう?」横を歩いているアキが尋ねた。


「うん」ぼくはちらりと振り向いた。さくら人間


「どうして?」


「1年生のときから、友達とよくCDを貸し借りしているのを見かけたから・・・」ドライブ。



「広瀬は聞かないのか?」


「わたしはダメ。頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃう」ホーホケキョ春


「ロックを聴くと?」


「そう。給食のカレー・ビーンズみたいになっちゃうの」桜


「ふーん」


「松本くん、部活は剣道よね?」華


「ああ」


「今日は練習いかなくていいの?」*sakura*


「顧問の先生に休部届を出してきた」


 アキはしばらく考えて、「でも変よね」と言った。桜


「部活で剣道をやっている人が、家ではロックを聴いてるなんて。なんかイメージがぜんぜん


違うもん」



「剣道で相手の面や何かを打つとスカッとするだろう。だからロックを聴くのと同じ


だよ」桜吹雪ミニ


「いつもはスカッとしてないの?」


「広瀬はスカッとしてるのかよ?」桜吹雪ミニ


「スカッとするって言うのが、わたしにはよくわからないけど・・・」




 ぼくにもよくわからないけど・・・。



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 そのときは2人とも、中学生の男女として節度ある距離を保ちながら歩いていた。


にもかかわらず彼女の髪からは、シャンプーというかリンスというか、ほんのり甘い匂いが桜


漂ってきた。鼻のもげるような防具の匂いとは、えらい違いだ。こういう匂いを年がら年中


身にまとって生きていると、ロックを聴いたりしないで人を叩いたりという気分にはサクラ


ならないのかもしれない。


 登っていく石段は角が丸くなり、ところどころ緑色のコケが生えていた。石の埋まってさくら


いる地面は赤土で、1年中湿っているように見える。突然、アキが足を止めた。


「アジサイだ」あじさい。


 見ると山道と右手の崖の間に、一群のアジサイが葉を茂らせていた。すでに


十円玉くらいの花の赤ちゃんをたくさんうえつけている。あじさい。


「わたし、アジサイの花って好き」彼女はうっとりとした顔で言った。



「花が咲いたら、一緒に来ない?」あじさい。


「いいけど」


ぼくはちょっとあせって、


「とにかく上まで登ろうぜ」と言った。あじさい。










備考:この内容は、2004-6-20発行 小学館 片山恭一著 

「世界の中心で、愛を叫ぶ」より紹介しました。